デプン寺・ショトゥン祭の一日 [LHASA・TIBET]

朝、四時十分に目覚ましが鳴る。 前日夜遅くまで、現地スタッフたちと飲んでいた が、起きた途端に不思議に体がシャンとする。 そう、今日はショトゥン祭なのだ。

ホテルへ直行。 お客さんも準備万端だ。 総勢44名。 みなさん遅れることもな く、二台のバスに乗り込み、いざデプン寺へ! 

道中、多くの観光客、巡礼者たちが歩いてデプン寺に向かって歩いているのを見かける。 ほとんどのバスは、交通整理の公安に阻まれ、ある地点から先は歩かなければならない。 歩いたらゆうに2時間近くはかかるであろう。 途中、一台のバスに皆乗り込まなければならないハプニングはあったが、我々風のスタッフおよびお客さんは、畏れ多いことにデプン寺から「特別優待状」なるものを頂戴していたので、なんと境内まで悠々とバスで入っていくことができた。 ショトゥン祭の混み具合を知るみなさんは、これがどれほどスゴイことかお分かりであろう。

午前六時すぎ、「風の休憩所」に着く。 「風の休憩所」とはいっても、もちろんデプンにはそんなものは存在しない。 普段はお坊さんたちがクラス・ルームとして使っている部屋を、12日早朝だけ貸していただいたのである。 隣にはおまけにキッチンまである。 現地スタッフたちが振る舞うスィートティーや珈琲を飲みながら、我々は夜空を仰ぎ見る。 そう、デプンはラサの郊外にあるため、空気がやや澄んでおり星が綺麗に見えるのだ。 あれは、オリオン、こっちは昴、と星に詳しいお客さんが空に向かって話す。 流れ星も見えた。 冬の星座を夏に見るのは、ちょっとした快感だといっていい。

「風の休憩所」(昼)
「風の休憩所」(昼)

七時前後、朝食が振る舞われる。 お粥と炒め物数種。 日本のふりかけもある。 うまい。 十分腹ごしらえをし、いざタンカ台へ出陣!

「出陣」とは大袈裟に聞こえるであろうが、数万人規模でやってくる巡礼者・観光客の中をくぐりながらの巡礼である。 チベット人の信仰心の現れであろうか、押し合い圧し合いは、チベットの祭にはつきものなのである。 気を張っていかなければ、迷子になってしまうし、怪我もしてしまうかもしれない。

我々は道中、ツォクチェン(デプン寺集会場)から持ち出されたばかりの、棒状に折りたたまれたタンカに、偶然ばったりと鉢合わせになった。 僕は「タンカに触ると御利益がありますよー」と叫び、お客さん、スタッフもチベタンに混じりながら、タンカを撫で撫でする。 お客さんのなかに、タンカに触った途端、気分が悪かったのが吹っ飛んだ、とおっしゃる人もいた。

巡礼者に運ばれるタンカ
(巡礼者に運ばれるタンカ)

午前八時過ぎ、真っ青な空の下、タンカが開帳された。 
毎度ながら、観光客のシャッターと巡礼者の異様な熱気が、デプン横の丘を襲う。 信仰心と好奇心が混ざり合った、大きな渦巻きのような視線が開帳されたタンカに一気に注ぎ込まれる。 お釈迦さまご本人は、御時世の二千五百年後に、自分の姿が縦横数十メートルの布に描かれ、信仰のある人もない人も、数珠やカメラを片手にその「布」を求めて集まってくるということは、予想だにしなかったであろう。 ちょっと夢想気味に、僕はタンカを眺めていた。

タンカ開帳
(タンカ開帳)

大きな事故もなく、風のショトゥン巡礼は終わった。 ほっとする。 肩の荷が下りた感じだ。 午後は各グループごとに、セラ寺のタンカを拝みにいったり、ノルブリンカのアチェラモ(チベット・オペラ)を観に行く。

夜、風の東京本社・まきこ添乗の「青蔵鉄道で行く聖都ラサとショトゥン祭」のお客さんの夕食の場に出向く。 風のチベットツアーの最後の晩はチベット鍋料理(チベ語で「ギャコク」)である。 その後はみなが酔った勢いで、チベット民族衣装コスプレ大会! ということになっている。 今回は、勇んで着ようというお客さんがいらっしゃらず、まきこが着る羽目に。 

ギャコク
(チベット鍋・ギャコク)

彼女は聡明で凛々しいところがある反面、(適当な表現は見つからないが)ちょこちょこしていて、どことなく笑えるキャラでもある。 それでいて美しいので、そこが「まきこ人気」の秘密か。 

チュパ(チベット民族衣装)に着替え、お客さんの前に出た途端、「わー、美しい、きれいー、かわいいー、似合ってるわー」と感嘆の嵐。 まきこも照れ気味だ。 そして、僕も駐在という立場上、男物のチュパを着たほうがいいと思い、チュパ姿で颯爽とお客さんの前へ。 

お客さんの一人が、「わー、なんか似合ってるけど、チベット人って感じじゃないわね。 どちらかというと、アリババみたーい」。 僕は「なんやと、ちょっと待たんかい。 なんでアラビアン・ナイトの盗賊に見えるんじゃい!」と内心思ったが、撮られた写真を見て悔しくも納得せざるを得なかった。

添乗まきことアリババ
(添乗まきことアリババ)

酔い顔のまま、右手にチベットの地酒チャンを持ち、左側にまきこ姫を抱えたとなると、「アリババ」に見えなくもないというか、見えてしまう。 自尊心をちょっと傷つけられるが、見えるものはしょうがない。

夜十時、まきこ姫、チベットの達人・長田さん、そしてもう一人の風の添乗オギワラを僕の部屋に招待する。 シミカルボとシロをみんなに紹介したかったからだ。

オギワラくんとは去年知り合ったが、なんかすごく頼もしい感じになっていた。 去年、オギワラが電話連絡を担当していたお客さんから、いろいろ苦情のようなことを直接きていたので、一度会ってゆったらなアカンと思っていたが、実際会ってみると非常に清々しい印象を与える男だ。 

「いやー、猫って見てるだけで、本当に癒されますねー」とオギワラが言う。彼の何気ないコメントそのものが癒しとなっていることに彼はどれほど気づいているだろうか。 その声色といい、意表をつくそのタイミングといい、完璧だ。 人の心の凝り固まった何かをちょっとだけ溶解させるような、彼の魅力は、登山の専門家だけにとどまっているのはもったいない。 近い将来、「風の癒し人・荻原が添乗する○○ツアー」というのもできるかもしれない。

さわやか荻原@ショトゥン
(さわやか荻原@ショトゥン祭)

長田さんは、猫が好きなようだ。 僕がソファーに座ってくださいよ、と言うと、「猫と同じ高さにいたい」と笑いながらも長田さんらしい意味深長なことを言われ、床にペタンと座っている。 そういう長田さんの気持ちを知ってか、猫達も長田さんを好いているようだ。 特に赤ん坊のシロは、長田さんの合わせた足の裏の中をクルクル回っている。 シミカルボは、まきこ姫に日本から持ってきてもらった、「食べるにぼし」を長田さんの横でウハウハ食べている。 

あー、今日も一日終わった。 
ショトゥン祭が無事終わってよかった。

Daisuke Murakami

naughty shiro
(シロと長田さんの足)

8月16日 
天気 曇り時々晴れ (最近は夜雨が降ることが多いです)
気温 11〜21度
服装 上はシャツ/Tシャツの上に、薄手のジャンパー、長ズボンが一般的です。 紫外線はかなり強いので、日焼け対策は必須。 空気も非常に乾燥しています。 あと、雨具は必ず持ってきてください。