第9話 ザンスカールへの道[LADAKH]

ザンスカール地方の調査へ行って来た。キナウルとスピティ地方の調査を終えた友人の宮本神酒男さんがレーへやって来たので、いっしょにザンスカールへ行くことになった。彼とは、5年前から西チベット、四川省の遺跡と少数民族の文化をいっしょに調査している。彼は、ネパールのムスタン、ドルポ地域以外のチベット文化圏のほぼ全域を踏破し、シャーマニズムを研究している。

参考:
「宮本神酒男のスピリチュアルな冒険」
「ばんざい地球人」での連載記事「世界のシャーマン便り」

調査からラダックのレーに戻ったあと、二人で今回のザンスカールの旅を振り返りお互いの感想を交換しあった。

フォトゥ・ラ峠 
ラマユル寺院から、カルギル、スリナガル方面へ向かうと、フォトゥ・ラ峠(4,094m)にいたる。

フォトゥ・ラ峠峠からラマユル方面(フォトゥ・ラ峠峠からラマユル方面)

私 フォトゥ・ラ峠は、見事でしたね。2004年に西チベットをいっしょに旅したときに越えた数々の峠と今回のフォトゥ・ラ峠を比べてもまったく遜色ないですね。峠の手前もすばらしい景色だったけど、峠を越えてからも不思議な景色でした。

フォトゥ・ラ峠から火焔山のような光景(フォトゥ・ラ峠から火焔山のような光景)

宮本(以下、宮) ほんとに、印象的な光景で10年前に行ったシルクロードのトルファンの火焔山を思い出しましたよ。でもこっちのほうがインパクト強かったですね。

私 そうギザギザの山々が、荒涼とした風景をさらに強調していて。

宮 峠を降りると、緑のきれいな谷間がありました。なかには、きれいなイスラム教徒の集落もあったけれど、この谷間には、軍事施設がたくさんあって、ゆっくり写真をとってみたいって気分ではなかったですね。

私 谷間をすぎると今度はナミカ・ラ峠(3,720m)を越えることになったけど、こちらの峠はフォトゥ・ラ峠に比べると印象は弱かったですね。

ムルベク
ムルベクの弥勒磨崖仏(ムルベクの弥勒磨崖仏)

宮 ムルベクのあるワッカ渓谷におりてくると谷間がより狭くなりましたね。この地域のメインの観光地であるムルベクの弥勒の磨崖仏は、昔の貴乃花みたいな立派な顔でよかった。

私 芸術的価値も高いですね。高さも15mあり、堂々とした風格の仏様。

宮 磨崖仏の前に建てられたラダックの仏教寺院は、仏像の足の部分を外から見えなくしてしまい邪魔でした。この仏像は、チベット仏教の仏像ではなく、インド仏教のものなのに。

私 インド仏教といっても、いつの時代、インドのどこから来た人がこの弥勒像を彫ったのか、はっきりしていませんね。ガイドブックには7、8世紀の建立と書いてありましたが、根拠は示されていませんでした。問題の寺院の僧侶は、2000年前のアショカ王時代のものだと説明していたので、それはありえないでしょうと言っておきましたよ。

宮 チベットのお坊さんは、いつも、年代に関しては古く見積もる傾向がありますから。 

私 この磨崖仏に関して、インド仏教美術の専門家は、どのように解釈しているのでしょうか? ラダックの書店を探して見ても詳しい解説書はなかったですね。

宮 いま残っているチベット仏教の弥勒像に比べても、この像のスタイルは違っています。立像で、目は半眼でなく見開いているし。

カルギル
スリナガルとレーを結ぶ要所にある町。主な住民はイスラム教徒。ここからパキスタンの国境まで約4kmしかない。
カルギルの町(カルギルの町)

私 カルギルは、たいしたことのないインドの町でしたね。旅行者にもあまり人気がないようで。モスクから聞こえてくるコーランの詠唱もいままで聞いたなかでは一番下手だったし。

宮 この町は、スリナガル、ラダック、ザンスカールへ行く人々の中継地の役割を担っています。スル谷へ行く途中、大きな軍事基地もありました。

カルギルからザンスカールへ
スル渓谷

スル渓谷のイスラム教徒の少女(スル渓谷のイスラム教徒の少女)

宮 カルギルから、ザンスカールへ向かう道は、スル渓谷といい、イスラム教徒の住む地域のせいか、まるでパキスタンのギルギットやフンザ、新疆ウィグルのシルクロードみたいでした。途中からは、ヒマラヤ山脈のヌン(7,135m)、クン(7,087m)連峰がみえました。ヌン山には雪がありクン山には、あまり雪がなかったですね。

ヌン山、クン山(ヌン山、クン山)

私 地元の人やドライバーに聞いても、どちらがヌンでどちらがクンかよく分からなかったですね。ところで「ヌンさん、クンさん」ってお話のタイトルみたい。

宮 やじさん、きたさんか!

丘の上のモスク(丘の上のモスク)

私 河に接している黒い氷河(パルカチク氷河)の手前の村には、チベットの寺院みたいに峻険な岩山の上に立っている丘の上のモスクがありましたね。

宮 この黒い氷河は、そんなにきれいじゃないけど、パキスタンのフンザにも黒い氷河があって、その上でテント張ったことを思い出しました。夜中、突然爆発音みたいな大きな音がしたことを覚えています。まさに大自然のシンフォニー。

黒いパルカチク氷河 (黒いパルカチク氷河)

私 黒い氷河といえば、青い稲妻。この先から、たくさんの氷河や、氷河によって形成されたU字谷がありましたね。ここは、氷河研究者にとっては、たまらない地域でしょう。間近に見えて、しかも車で行けるし。

宮 79年にカルギルーザンスカール間の自動車道が完成したので、今でこそ自動車で行けるけど、こんなに景色のよい渓谷は、トレッキングしたいです。車道ができると便利だけど、トレッキングで味わう景色とは違ってちょっと残念。

私 この黒氷河から、ペンジ・ラ峠までの間の景色は、チベット文化圏全体でも最上位のドライブ・コースにランクされますね。でも道中長いのでいちいち停まって写真を撮っていたらザンスカールまで着くのに時間がかかってしまうので、写真撮影をしたい方は、ランドゥムで一泊するとよいでしょう。

ランドゥム盆地
ランドゥム盆地(ランドゥム盆地)

宮 お茶を飲んだランドゥムの谷間は圧巻で、ここに何時間止っても写真を撮りつくせないと思いました。ここって大きな谷が六つも合流してるんですよ。高地にあるこんな谷間は世界にも他に類をみないのでは。この谷間で飼われている牛や馬などの家畜も幸せそうで、まるで動物天国。

私 チェック・ポストから見えるランドゥム寺の背後の山は、褶曲した縞模様で、別世界のようでした。この盆地の空間に立ちながら臨死体験で報告されているような風景を想像してしまいました。ランドゥムの谷間からのペンジ・ラ峠(4,401m)までの区間にも、U字谷がたくさんあって、谷の向こう側へ行きたくなりました。そんな谷間を見ている間にペンジ・ラ峠はあっさり越えてしまいましたね。

宮 ペンジ・ラ峠を降りてしばらくするとドゥルン・ドゥン氷河が左に見えてきて。

私 S字カーブを描いて、これぞ氷河!といった。氷河の代表的な風景みたいな。

ドゥルン・ドゥン氷河(ドゥルン・ドゥン氷河)

宮 再び、谷底へ降りてくると再び畑作が始まっていました。この渓谷は、それほど印象深くなかったですね。
(続く)

ザンスカール出身日本語ガイド・スタンジンと行く

インド最奥の「信仰の里」 ザンスカール10日間

出発日設定2019/09/14(土)
ご旅行代金422,000円
出発地東京