チベットの遊牧民と結婚するということ[LHASA・TIBET]

先日、チベット人の女友達とご飯を食べた。 彼女とは七年ほど前からの知り合いで、めでたいことに近いうちに結婚するのだという。 相手は遊牧民出身の男。

彼女はチベットの感覚でかなり婚期が遅れていたため(今35歳)、あせっていたようだが、よさそうな相手がようやく見つかって、なんとなく僕もホッとした。 相手は、学問のある人間で、聞けば聞くほど素直で性格がよさそうな奴だ。 三年ほど年下で、僕の友だちのラキ(仮名)が、今までの人生で最初の女性らしい。 このままいくと数ヶ月後には結婚式である。 しかしながら、ラキはひとつ心配事があるようだ。

それは、彼は大学院も出るほどの男だが、「遊牧民出身」だという。 それだけ聞くと、なぜ? という感じになるが、遊牧民は親族同士、友人同士、家やテントを泊まり周るようで、それも一度泊まったら、一日や二日だけでなく、数ヶ月も我が家のように滞在していくのである。 それは、ホスト側にとってみれば、「自分をよく思っているから滞在してくれている」ということで、とてもいいことらしい。 ラキの相手の男は八人兄弟で、それも聖都ラサの家ということになると、年がら年中「巡礼宿」にされることは間違いなし。 それを心配しているのだ。 それに、ステレオティピカルな見方だが、遊牧民の男は、女性を下僕(チベ語で「ヨモ」)のように扱うようで、日中の仕事で疲れて帰ってくるラキは、自分の家でもゆっくりできないかも、と予期される下僕生活を思い描いている。

彼女は、ヨーロッパに数年間住んだこともある、非常に優秀かつ洗練した感じの女性である。 プライベートスペースに関しては、普通のラサ人以上に敏感で、夫婦のスペースが破壊され、「巡礼宿の女中」になってしまうのは、幻滅以上に苦痛であろう。 この件に関し、ラキは相手ともよく話し合ったそうだが、当然のように、彼は親族を両手を広げて迎えるつもりのようだ。 婚約破棄までいくひどい喧嘩もしたらしいが、相手の男もラキの気持ちをようやく悟ってくれたらしく、お互い少しずつ妥協することになったようだ。 心配は完全に解消されたわけではないが、「婚約復活」を祝い、相手の男は貯金の半分以上をはたき、指輪をラキにプレゼントしてくれたようだ。 熱い男だ。 

話は変わるが、日本や欧米の女性の間では、チベット人の遊牧民に憧れる人が多い。 女性の人気のトップである僧侶階級には敵わないものの、遊牧民の素朴さ・雄大な自然の中に生きているその生き様や、野性的でたくましい風貌にコロっといってしまうのだ。 しかしながら、ひとりと一緒になったつもりが、数十人の家族と一緒になる運命かもしれないので、要注意である。 

ついでにいうと、お坊さんもなかなか難しいところがある。 お坊さんの魅力はいろいろあると思われるが、(僕の想像する)女性が惹かれるお坊さんの魅力とは、彼らのストイックな生き方そのものなのである。 性欲を中心とした煩悩から離れ、禁欲に生きるその生き方。 それは、ある意味「反=自然」でもあるため、常に危うさを抱えている。 彼らに触れてはいけないが、その禁止が故に、その禁止をお互い犯してしまうかもしれない危うさが故に、スリリングでアンビバレントな誘惑があるのである。 これは、男が、女性の処女性や純潔性に対して聖性を見出し、彼女を積極的に護り聖化すればするほど、−性の極の緊張ある対峙によって− その処女性を精神的に(時には物理的に)犯してしまうキケンや魅惑と隣り合わせなのと、構造的によく似ている。 ようは、禁欲のお坊さん(特にゲルグ派)と恋の逃避行に走るということは、当のお坊さんは還俗せねばならない=魅力の喪失という、なんとも皮肉な結果になってしまうのである。

Daisuke Murakami

10月27日
(ラサの)天気 くもり時々雨 (今日は雨が降って肌寒いです。)
(ラサの)気温 0〜15度 
(ラサでの)服装 ジャンパーやコート、長ズボン。 日焼け対策は必須。 空気は非常に乾燥しています。 雨具も必須。