近々ラサに来られるすべての皆さまへ: 玉樹での大地震について [LHASA・TIBET]

日本でも大きく報道されているかと思いますが、昨日青海省の玉樹(ユーシュー)において大地震が発生しました。現段階での地元メディアの発表によると死者約600人、被災者は10万人を超えると言われており、大災害の様相を呈しています。こちらラサで報道されている映像や情報は限られていますが、多くのチベット人が被災し、救援の手がなかなか届きにくい現状に思いを馳せると、胸がとても痛みます。

二ヶ月ほど前になりますが、私は玉樹出身の若者と、同じく玉樹に旦那をもつ友人と、
一緒に飲みに行きました。話題は自然、玉樹の話になり、地元のお寺の祭祀のことや、
いかに玉樹が美しい自然が広がっているか、ふたりは私に延々と語ってくれました。
そんな美しいところなのか、と私は玉樹に惹かれ、いつか行ってみたいと思っていたところでした。

そんな玉樹が、玉樹の人々が、突然の不幸に見舞われおおくのものを失いました。
昨夜からニュースを見るたびに、瓦礫の下に埋まった人々に早く救援の手が差し伸べられないのかと、
いらだちを感じます。

* * *

ラサに住んでいるチベット人の多くは、今回の惨事に大きな関心を払いながらも、
いつもと同じ生活を続けています。さきほどもバルコル(ラサの中心街)を歩いてきましたが、
あるチベタンは友達と楽しそうに、ある人は真剣に祈りを捧げながら、
ラサのいつもの日常が広がっていました。
私が泊まっているゲストハウスでは、
鼻歌まじりに掃除をするスタッフ達の忙しいような忙しくないような足音が聞こえてきます。

今回の大地震では、青蔵鉄道への影響もなく、
ラサ方面へのご旅行されるお客さんにはほとんど影響はないでしょう。
おそらく日本の各旅行社も、みなさんに心配されないように呼びかけていることだと思います。

でも、気がかりな気持ち、本当にチベットに行ってもいいのか、
心配になっていらっしゃる方も多いと思います。

今朝、数週間後にラサに来られる私の知人から、こんなメールを頂きました。
「旅行社の方は、ラサや鉄道は問題ない、とおっしゃっていますが、
このような時期にチベットに観光とは不謹慎ではないかと思うのです」。

もっともなお気持ちだと思います。

被災地そのものに観光をするわけではないものの、
同じチベットの大地に住む人々が不幸に見舞われているのを横目に、
楽しくラサ観光をするのはいかがなものかと気持ちが咎め、
こころが晴れ晴れとしないのは、とても自然な気持ちだと思うのです。
現地のチベット人に失礼ではないのか、感情を逆なでするのではないか、
と気がかりになるのは至極もっともなことだと思います。

一方私は、繊細な気持ちを持つこの知人にこうもこたえました。

観光とは確かに楽しみ遊ぶものです。
楽しみ遊びながら、現地の人々の暮らしや文化を理解するきっかけとなるものです。
そして、それがチベットに深い関心をもつ大きな一歩になることでしょう。

単刀直入にいえば、チベット観光は単なる観光ではおわりません。
長い仏教の歴史、そして特殊な近現代史を生きている多くのチベット人にとって、
ひとりでも多くの日本人、外人にチベットに関心を持ってもらうことは、
この上ない喜びなのです。これは真実です。
それほど、チベット文化というのは普遍的な魅力があると同時に、
世界中に伝えていく価値があるものなのです。
現地のチベット人たちは、普段は言葉では表わしませんが、
こうした外からの関心を非常に好意的にとらえています。

日本からチベットに来るのは、なかなか普段はできることではありません。
高地であることや時間的な問題など、様々な障害があるからです。
「チベット観光」は、(思い入れの差はありますが)個々の人生にとって非常に貴重な体験、
いや、転機にもなりうるとさえ、私は思っています。
少なくとも私はそのようなつもりで、
そのような方々のお気持ちにもこたえるよう、これまでお客さんに接してきました。

話はもどりますが、
なによりも現地チベット人たち(そしておそらくは世界中に散らばっているチベット人たちの多く)が、
チベットの今と昔を多くの方々に知って欲しい、という強い気持ちがある、
ということは確実に言えます。
被災した玉樹の人々に対する我々の思いはしばらく消えることはありませんが、
現地の人々の思いやご自身のあり方を顧みながら、
今回のご旅行をどうするか考えられるのが一番だと思います。

Daisuke Murakami