ネワールの古都を訪ねる

ネワールとはカトマンズ盆地の先住民族のこと。独特の都市文明を築き、建築、彫刻、宗教、言語などの文化を高度に発展させました。ネワールの文化はこの国を代表する文化とも言えます。

カトマンズ盆地には数多くのネワールの街がありますが、特に規模が大きいのがマッラ王朝時代にそれぞれ王国の首都として栄えたカトマンズ、パタン、バクタプルです。これらの古都を訪れると、脈々と受け継がれるネワールの文化を肌で感じることができます。

カトマンズ盆地 古都の位置図


ネワールの町並み

ネワール族の多くは「トール」と呼ばれる同じ氏の家族で構成される地域の中に暮らしています。住居は、寺院や水場など公共の広場を中心として、「チョーク」と呼ばれる中庭を取り囲んで四方に密集しています。

木彫りの窓

美しい装飾が施された木窓(キルティプル)
美しい装飾が施された木窓(キルティプル)

赤レンガの寺院や住宅が立ち並び、中世のような風情を感じさせるネワールの旧市街。その美しさを際立たせているのが建物の窓、柱、扉などに施された繊細な彫刻です。特に透かし彫りの窓はネワール建築の大きな特徴で、寺院や王宮はもちろんのこと、一般の民家の窓にも見られます。中には美術館にあってもおかしくないような立派な窓を持つ民家もあり、思わず足を止めて見入ってしまいます。

住宅街

震災後も古い家々が残る(パナウティ)
震災後も古い家々が残る(パナウティ)

ネワールの住宅は3~5階建てが一般的で、1階に商店・倉庫、2〜4階は寝室やリビング、不浄とされるトイレは下階に、神聖とされる台所は最上階に設けられます。住宅は中庭を囲むように建ち、中庭にはヒンドゥの神々を祀る祠や小さな仏塔、共同の水場などがあり、人々の憩いの場になっています。

細い路地

探検気分に浸れる路地裏散策(パタン)
探検気分に浸れる路地裏散策(パタン)

「トール」や「チョーク」つなぐ路地は家の中を通っているようでも、公共の立派な通路。家々の狭間には、人が一人しか通れないような無数の生活路が蜘蛛の巣のように張り巡らされています。トンネル状の狭い路地が隣り合う中庭を繋いていて、旧市街はまるで迷路のようです。


芸術と工芸

ネワールの街には、木彫り職人、仏像職人、タンカ職人、お面職人が丹精込めて製作した作品を売る商店が並びます。

神仏像

ガネーシャの使者であるネズミ像(カトマンズ)
ガネーシャの使者であるネズミ像(カトマンズ)

カトマンズ、パタン、バクタプルの王宮や寺院を訪れると、門前に1対の獅子や象の石像が立っていたり、屋根の支柱に腕がたくさんある神様の彫刻が施されていたりと、様々な神仏像を見ることができます。

宗教文化が大きく発展したネワールでは、神仏像が多く作られ、これにより石や木材、金属の彫刻、鋳造の技術が発達しました。現在でもその高い技術で作られた精巧な鋳造仏像は世界的に評価され、チベットやインド、日本などへ輸出されています。

ポーバー

ポーバーを描く職人(パタン)
ポーバーを描く職人(パタン)

ネワール族は、絵画の分野でも秀でた才能を発揮し、特にインドの伝統を受け継いだ仏教絵画の技術はチベットにも導入されました。現在でもポーバーという仏教の神仏を描いた軸装仏画が作られ、その伝統が受け継がれています。ポーバーはチベットの仏画タンカに似ているため、現在はタンカと呼ばれることが多いです。


人々の信仰

人々の日課の祈りの声とともに手にした鐘を鳴らす音、寺の鐘をたたく音、そして焚かれる線香の香り。カトマンズの朝は、祈りの鐘の音で始まります。

篤い信仰心

仏教寺院ゴールデンテンプル(パタン)
仏教寺院ゴールデンテンプル(パタン)

ネワールの街を歩いていると、実に多くの寺院を見かけます。寺院以外にも、住宅地の中庭に小さな祠があったり、道端に小さな神像が祀ってあったり。それらの多さからネワールの街は「人よりも神々が多く住んでいる」と表現されました。人々の信仰心の篤さと、神々が地震や自然災害から守ってくれるという考えから多くの寺院や祠が作られたのです。ネワールの人々は今も篤い信仰を守り、毎日の礼拝を欠かすことはありません。

宗教の折衷

ヒンドゥ教の生き神クマリは仏教徒の娘が務める(ブンガマティ)
ヒンドゥ教の生き神クマリは仏教徒の娘が務める(ブンガマティ)

同じネワール族でも「ヒンドゥ教徒」と「仏教徒」がいるため、街にはヒンドゥ寺院と仏教寺院が混在しています。また、仏教寺院にシヴァ神の像が並んでいたり、ヒンドゥ寺院にブッタが祀られてあったり、どちらのお寺か見分けるのが難しいほど。さらに、仏教徒がシヴァ神を崇めたり、逆にヒンドゥ教徒が仏教寺院にお参りに行くなど、ネワールの人々は分け隔てること無く崇拝しています。ヒンドゥ教と仏教の折衷はネワール族の信仰の大きな特徴と言えるでしょう。