第82回●テルカドジェ  ~あなただけの薬草茶~

小川 康の 『ヒマラヤの宝探し 〜チベットの高山植物と薬草たち〜』

tibet_ogawa082_1テルカドジェ 日本名・ハブ茶

小諸高原での薬草観察会(第78話参)を終えると、今度は会場を屋内に移しMy薬草茶講座が始まる。机の上に並べられた20種類の薬草。小諸高原で採取したものもあれば、薬草会社から購入したものもあれば、インドから持参したものもある。その中で、まずはハブ茶だけを試飲してもらう。

「ハブ茶は西日本では普通に飲まれているお茶です。正式名称はエビスグサといい、生薬名は決明子(ケツメイシ)といいます。ちなみにチベット名はテルカドジェですが、お好きな名前を1つ選んで覚えてください。味は飲みやすいでしょう?」

tibet_ogawa082_3配合する薬草

tibet_ogawa082_4配合された薬草茶。美味しいかな?

「次にハトムギを飲んでみてください。これは私のふるさと富山県高岡市で栽培されたものです。どうですか?ハブ茶が“キリッ”とした性格に対して、こちらは柔らかい感じがしませんか?」

「では、この2つを混ぜてみましょう。ほら、キリッとした味と柔らかさが重なって全体に深みが出ましたよね。さらにここにちょっと癖のあるドクダミを加えまして・・・」

薬草の単独での味を確認してもらった後に、それらが一つ一つ重なっていく変化をみなさんに体験してもらっている。時には「えっ」というくらい僅かな薬草の配合で味が変化してしまうこともあり予測ができない。いつも、最初にデモンストレーションで僕が作ってみせるのだが、ときには不味く出来上がってしまい冷や汗をかいたこともある。

「みなさん基本は分かりましたね。では、いよいよみなさんにオリジナルの薬草茶を作ってもらいます。今あなたが一番、大切にしている人を思い浮かべながら作ってください。たとえばご家族に糖尿病で悩んでいる人がいたら血糖降下作用に優れたカキドオシを主とした薬草茶を、恋人に捧げるならばシナモンを基本にして香りを際立たせるといいですね。もちろんとりあえず自分のために作ってもいいですよ。そして最後にお茶に素敵な名前をつけてください。『高原そよかぜ茶』とか『おとう茶ん』『ロマンス茶』なんていうのもいいですね。では○○さんからお願いします」

tibet_ogawa082_5薬草茶講座の様子

こうして参加者の人数分だけのオリジナル薬草茶が出来上がっていく。
アーユルヴェーダを勉強している方はインドの薬草をベースに「オリエンタル茶」が完成。
元料理人の方はヒマラヤ岩塩を隠し味に加え、コクがとても深いお茶「職人茶」が完成した。その後、僕が何度も岩塩を用いて真似をしてみても同じようにはいかず「滅茶苦茶」が出来上がってしまったものだ。
穏やかな性格の女性は、その性格どおりのお茶が出来上がり「ぼんやり茶」と命名された。
中には笑ってしまう味のお茶ができることもあり、その怪しげな匂いから「熊の足跡茶」なるものが誕生したこともある。
男子学生はとりあえず端から全て混ぜないと気がすまないらしく、予想どおり素晴らしく不味い「何でも混ぜ茶った」ができあがった。まあ、男心としては理解できなくもない。
「小川さんが用意した薬草ではなく、自分が薬草観察会中に採取した薬草を使いたい」と意欲満々の参加者には恐れ入った。まさに真のMy薬草茶「俺茶」である。

こうして薬草が重なり合い、同時に「自分の物語」という有効成分が配合されていく。最後にお土産として1袋ずつオリジナル薬草茶を持ち帰ってもらうけれど、その後「家族のみんなが不思議な顔しながら飲んでくれました」など効果効能?も報告されている。きっと楽しい会話が弾んだことだろう。有効成分「モノガタリ(物語)」は新鮮なほど効果は上がる。

tibet_ogawa082_2採取した薬草を乾燥する筆者

時にアムチ薬房には様々な悩みを抱えた患者さんが訪れる。しかし、正直に告白すると、チベット医学の奇跡を体現できる薬もなければ、特別な施術も僕にはできない。知り合いの医者や鍼灸師を紹介し、穏やかな効能のチベット薬を数日分、お土産として差し上げるだけである。それでも、患者さんの顔を見ながら、目の前で薬草を調合し「あなただけのための薬草茶」を飲んでもらい「美味しいですね」とお世辞でも言ってもらえると、僕は少し嬉しくなる。熊笹、ヨモギ、ドクダミ、カキドオシ、アキカラマツ、オオバコ、桑の葉、柿の葉、これらは初夏に僕や観察会の参加者みんなで採取した薬草だ。みんなの思い出、笑い声が詰まっている。そして薬草畑から掘り立ての当帰(第73話参)をお茶にして飲んでもらうと、アムチ薬房は昔の薬屋さんの匂いが充満して、なんだかいい雰囲気になった。

僕には特別なことは何にもできないけれど、チベットの話に耳を傾けながら、My薬草茶を飲んで元気になって帰っていってほしい。自宅に帰ってから「こんな面白い人がいたよ」と笑顔で会話が弾んでほしい。アムチ薬房が処方する有効成分、ビタミンM(My自分)とビタミンL(Laugh笑い)が、あなたの心と体を癒しますように。

小川さんからのお知らせ

寒くなってきましたね。屋外での薬草観察会は終了しました。11月からはアムチ薬房内でMy薬草茶講座を開催します。

<11月> <13時~14時半> <15時から16時半>
7日(日) My薬草茶講座 ヒマラヤと日本の薬草スライドショー
13日(土) 同上 同上
14日(日) 同上 同上
23日(火・祝日) 同上 メンツィカンのドキュメンタリー映画上映
27日(土) 同上 同上

詳しくは 小川アムチ薬房 のサイトをご覧ください。