添乗報告記

添乗報告記●馬で山脈を越え目指すイシククル湖
キルギス騎馬トレックとイシククル湖8日間(2009年8月)

 

2009年8月1日〜2009年8月8日 文●八田裕子(東京本社)


キュンギョイ・アラトー山脈にて

今回、私はキルギスの山を1泊2日のキャンプをしながら馬で越える騎馬トレックのコースに添乗員として同行してきました。キルギスの美しい自然や、馬のリズム、時間を忘れてしまうようなステキな宿泊先を思い出すたび、ぼーっと仕事が手につかなくなります(いやいや、そんなことはありません)。 夏のキルギスは最高ですよ! (6月初〜9月末までが例年騎馬トレックのシーズンです)

ウルムチ〜ビシュケク 天山の雪峰がお出迎え


窓際の席がおすすめです

中央ユーラシア、新疆ウイグル自治区からキルギス東部には、乾いた大地の乾いた暮らしを清らかな雪解け水で潤す恵みの山々があります。シルクロードの人々はこれを天の山=天山山脈と名づけ敬虔な気持ちで眺めてきました。 今回の旅はこの天山山脈の真上を通過するウルムチからビシュケクまでの2時間弱のフライトに始まりました。離陸後次々に眼下に現れる4,000〜5,000m級の白い頂。惜しげもないその姿にシャッターを切り続けます。 到着の予告アナウンスが流れる頃、キルギスの誇りともいうべき美しい高山湖イシククルが眼下に現れ、目的地のビシュケクが近いことを私たちに教えてくれます。他の航空ルートでは決して目にすることのできない類稀なウェルカムセレモニー。 山と草原の国キルギスの旅の幕開けです。

キルギスでは、欲張らない日程が旅を楽しむ秘訣

キルギスは小さな国です。国土は日本の半分ほど。そのため中央アジア周遊コースの一部としてしか取り扱われないことが多いのですが、小さな国だからこそスローに旅するのがキルギスを楽しむ秘訣だと私は思います。帰ってからも心をつかんで離さない、そんな印象深い旅ができる国です。 このコースは8日間ですが、そのうち観光と呼べる内容はそんなに多くありません。また車での移動も最大1日4時間しかありません。日程表に1つの観光を除いて「ゆっくりお過ごし下さい」としか書いていない日もあります。シルクロードでは他にこのようなツアーはあまりありません。キルギスは美しい景色や優しい雰囲気が、急ぐ心を溶かしていく国。キルギスの穏やかな時間に抱かれ心地よい時間が過ぎていきます。


ブラナでは塔の上から景色を一望

岩絵野外博物館で騎馬民族の歴史に触れます

知られざるおすすめエリア チョンキミンへ


夏の草花に囲まれた
ロッジ・アシュー

飛行機でビシュケクに降り立った私たちは、その日、チョンキミンという谷間にあるカルマック・アシュー村へと車で向かいました。その村には世界遺産も観光地も何もありません。ただ草原と川と山々、そしてかわいらしい平屋の家屋や畑が集まっているばかりです。それなのに、なぜこの村を訪れるたびにこんなにも離れがたい気持ちになるのでしょう。ここは不思議な場所です。 宿泊したのは民家を改築して作ったロッジ・アシュー。家族経営の小さな宿です。部屋の中は木材を基調とし、壁にはオーナーのスタンベックさんが集めてきたキルギスの刺繍がかかり、床に伝統のフェルトラグが敷かれています。ロッジの外には丈の長い草花が生き生きと育ち、中庭に置かれたベンチでぼーっとしているうちにキッチンから夕ご飯のいいにおいが漂ってきます。


部屋には
アンティーク刺繍

アシューを経営する
スタンベックさん一家とスタッフ達

この日の夕ご飯は、サラダにスープ、そして牛肉と村で採れた野菜と無水で煮込んだお料理でした。この日のお料理に入っていたジャガイモが一番おいしかったという方もいらっしゃったほど、シンプルなのに忘れられないおいしいお料理でした。とても柔らかく煮込まれていたので、圧力鍋を使っているんですかと聞いたのですが、普通の鍋で調理されているとのこと。いい素材を、時間をかけて丁寧に作ることがおいしさの秘訣のようです。


ダイニングルームは憩いの場

今日のメインディッシュ!

いよいよ騎馬トレックが始まります

翌朝、ロッジ・アシューの前にはたくさんの馬が集められていました。アシューからキュンギョイ・アラトー山脈を越え、1泊2日かけてイシククルサイドを目指す私たちの騎馬トレックのために集められた馬たちです。乗馬初心者の方も馴れた方も、キルギスの馬に乗るのは初めて。歩き出すとき・止まるときの掛け声や、ムチの使い方など、不安なところを確認しながらゆっくりとスタートです。スタート地点の標高は1,840m。この日は4時間ほどの上りの予定です。


ガイドさんが馬の乗り方をレクチャーします

いざ、出発〜!

キルギス騎馬トレックで目指しているのは乗馬技術の向上ではありません。それよりも初心者の方でも参加できるような気軽さを重視してコースを選んでいます。 一番高いところの標高は3,540mありますが、キャンプ地はそれよりずっと低い2,700〜2,800mくらいに設定しているため、高山病の心配はそれほどありません。ただ人によっては、吐き気や頭痛、動悸などの反応が出ることがありますので、キャンプサイトや峠ではいつもよりゆっくり動き、呼吸を深くすることが大事です。 馬のリズムで進む旅、キルギスの風を頬に受ける旅、草花や山や雲の美しさに気がつく旅、飛行機や車の移動では味わえない感覚こそがキルギス騎馬トレックの醍醐味です。


花が咲き乱れる中を馬で進みます

チョンキミンのパノラマを見ながら一休み

鼻歌を歌ったり、草花を観察したりしながら、(気持ちよくて寝てしまいそうになった方も)馬はぽっくりぽっくりと山の中を緩やかに登っていきます。 お昼ごはんはアシューで作ってもらったお弁当。やはりアシューのご飯はおいしいです。野菜の味が濃いことにもびっくりしました。食べ終わった頃、山の向こうからゴロゴロゴロ・・・と不吉な音が聞こえました。雷でした。この日は2,700mまで登らなければならないこともあり、昼食後、レインスーツを身に着けました。


ここでお昼にしましょう〜

真っ黒な雲が出てきました

すると、案の定キャンプサイトを目前にして大粒の雨が降り出しました。 何とか本降りになる前にキャンプサイトに着くことができ、まずダイニングテントに避難。すぐに温かいお茶を出してもらいました。危機一髪だったねーと皆さんほっと一息ついていらっしゃいました。


オレンジのドームはダイニングテントです

雨の合間を縫ってハイキングを楽しみました

この日、キャンプサイトでは雨が降ったり止んだりといった状態が続きました。夜中に雨音で目が覚めることもあり、次の日どうなるか心配しましたが、運の良いことに翌朝には雨はすっかり上がっていました。 2日目の乗馬時間は最初の上り1時間、下りが4時間の計5時間です。今回の最高通過点であるカルマック・アシュー峠(3,540m)はまだキャンプサイトからは見えません。万年雪を残した雪山の向こうにその峠はあります。峠に雪が降ってしまうと、馬は峠の道を歩くことができなくなります。6〜9月まで、夏の間だけしかこのコースを設定していないのはそのためです。


標高約3,000m地点。雲が近いです

カルマック・アシュー峠にて

7・8月はもっともよい季節です。雨も少なく、一番寒い明け方でも気温はめったに5度以下にはなりません。花もたくさん咲いています。峠を越えたところでは、エーデルワイスが群生しているのを見つけました。他には風露草、ホタルブクロ、ケシなど、日本でもなじみのある草花を見ることができます。


お花摘みだって楽しみたい!

エーデルワイスを摘んでくれた
乗馬スタッフ達

峠を越えてからは急なくだりの連続。馬も歩きにくそうにしています。昨日のように鼻歌を歌いながらというわけにはいきません。道を知りつくしている先導の乗馬スタッフの後について下りて行きます。 といっても、難しい乗馬技術が必要なわけではありません。人間も下りの山道では足元に気をつかうように、馬もそろそろと下りていきますので、それに注意深く身を任せていれば大丈夫です。 途中、細いアップダウンの道があったので馬を下りて10分ほど歩きました。ゆとりある日程なので、怖いと感じるところがあれば馬を下りて歩いても十分時間があります。 遥かかなたにイシククル湖とその向こうに浮かぶ山脈が見え始めたところでランチボックスを広げました。山をはるばる越えて目にするイシククルは格別です。ビシュケクから車で行くのとは全く違う感動です。


急な下りもあります
前の人についてそろそろと

イシククルが見え始めました
お弁当タイム

イシククル湖畔で心の洗濯を

騎馬トレックが終わった後は、車でイシククル湖へ向かいます。イシククルの北岸にはチョルポン・アタという街を中心とする郊外にいくつものリゾートホテルが立ち並んでいます。今回私たちが宿泊したのはタリスマン・ビレッジのコテージタイプのお部屋でした。騎馬トレックのときのアドベンチャーな雰囲気とは打って変わって、イシククル湖畔では水着のまま歩いている方がいたり、ビーチで日光浴を楽しむ方がいたりと、まさにリゾートでした。私もタリスマン・ビレッジに到着すると、待ちきれず湖畔にダッシュ。夕食前に湖水浴を楽しみました。 イシククル湖で泳ぐということ。それは特別な体験です。まずイシククル湖が20万年前からある珍しい古代湖であること。高山湖でありながら冬でも凍らないこと、流れ込む川はたくさんあるのに、流れ出る川が一本もないこと、玄奘三蔵が不思議なことがよく起こる湖だと大唐西域記に書き残していること、湖底に眠る遺跡、などイシククルをめぐるトピックは神秘の湖と呼ばれる所以を説明するのに事欠きません。そんな知識は抜きにしても、イシククルの向こうに実際美しい天山の山々が見えるのですから、それだけで、これが日本の海水浴とは全く違った価値を持っていることを体で感じるはずです。雲ひとつない日は湖の色も一段と鮮やかでまさに言葉をなくす美しさです。


今回宿泊したタリスマン・ビレッジ

イシククルの前では何もしないが最高の贅沢

イシククル湖畔には、ジェットスキーや足こぎボート、パラセーリングなど海水浴場と同じように様々なアクティビティがありますが、その中でも特におすすめなのがボートクルーズです。ボートに乗って20分ほど進むと、北と南の両岸に美しい山が見えます。それだけでも贅沢ですが、山脈を見ながらボートから湖に飛び込むこともできます。こんな贅沢ありません。私たちが行ったときはあいにくの曇り空で肌寒い日でしたが水に入ってしまうと何だかそれさえも面白くてしかたがなくなってしまい、「冷たい!けどサイコー!」と笑い声の絶えないボートクルーズとなりました。

最後はやっぱり買い物でシメ!

ここまで自然を楽しんだ私たちは、買い物に飢えていました。女性がほとんどのグループでしたのでなおさらです。ビシュケクに着くとひたすら買い物をしました。オシュバザール、博物館のミュージアムショップ、百貨店、スーパーも2軒ハシゴしました。私自身のお買い物内容はこちら。


かわいすぎます!!

庶民の台所オシュバザールも楽しいですが、 お土産を買うなら百貨店がおすすめ

キルギスはロシアの影響を受け、センスのいいフェルト製品が揃っています。女性に喜ばれそうなお土産はいくらでも見つかる国です。 山あり谷あり湖ありの充実した8日間でした。見えるところぎりぎりまで見送ってくれたガイドさん運転手さんとのお別れも何だか辛かったです。 「きっとまた来て下さい。キルギスを忘れないで。」 まだまだ日本に知られていない国ですが、一度行ったら心をつかんで離さない魅力があります。皆様もぜひ機会があれば夏のキルギスにいらっしゃってください。