添乗報告記●サカダワ祭に訪れるラダック

添乗ツアー名 ●川﨑一洋先生同行 ラダックでチベット仏教を学ぶ(サカダワ祭)
2025年06月07日(土)~2025年06月14日(土) 
文・写真 ● 中村昌文(東京本社)

先日、チベット文化圏で最大のお祭りのひとつ「サカダワ祭」のさなか、とある団体の添乗として北インドのラダックへ行ってきました。
直前の4月にインドのカシミール地方でテロが起き、インドとパキスタンが実際にミサイルを打ち合い、緊張が高まりましたが5月中には情勢は落ち着き無事に旅行を催行することができました。そのあたりの詳細は以下の記事もご覧ください。

関連読み物

インドは危険なのか?

いざ! ラダックへ

まずはデリーのインドラガンジー国際空港から空路、インド国内線でラダックのレーを目指します。この日は天候にも恵まれ進行方向右側には標高4,500mの高山湖ツォモリリが、左側にはザンスカール山脈やパキスタン方面のヒマラヤがきれいに広がっていました。

国内線からのツォモリリ

国内線からのツォモリリ

ザンスカールやパキスタン方面の山々

ザンスカールやパキスタン方面の山々

レー空港で出迎えてくれたガイドのスタンジン親子とともにインダス川沿いに西へ向かい、一路ニンム(ニェモ)を目指します。ニンムはインダス川とザンスカール川の合流点付近の大きな集落ですが、標高3,200mとレーに比べて300mも標高が低いので高度順応しやすく、レーの喧騒が嘘のように静かな環境です。今回はここで2連泊して高度順応を進めます。

野ばらのトンネルを抜ける(ニンム村)

野ばらのトンネルを抜ける(ニンム村)

ニンムのお宿はニンムハウス。伝統的な家屋を改造した建物と庭に設置されたデラックステント、オーガニック素材のお料理などリラックスするには最適です。お宿とその周辺の散策で1日目はノンビリ過ごしました。標高3,200mというと、富士山の8合目と同じくらいです。過酷な世界だと思われがちですが、緑豊かなニンム村とニンムハウスのデラックス・テントはそんなことを忘れてしまうほど快適です。

ニンム―ハウスのグランピングテント

旧貴族の邸宅を改装し、館の一部をヘリテージ・ホテルとして開放している「ニンム・ハウス」

旧貴族の邸宅を改装し、館の一部をヘリテージ・ホテルとして開放している「ニンム・ハウス」

サカダワ祭のラダックは猛烈にお日様が照り付けて、真夏よりも暑いのではないか?と思わせられる気候で、緑と木漏れ日に包まれたニンムハウスの中庭が非常に快適でした。また、あちこちに野ばらが咲いていて、乾いた大地との対比で目を楽しませてくれました。

下ラダックの仏教壁画を訪ねる

ラダック2日目は、ニンムを拠点にサスポル、アルチ、マンギュと美しい仏教壁画が残されている村々を訪ねます。今回の旅には高野山大学の川﨑一洋先生が同行、随所で仏教解説とお堂の中で読経をしてくださいました。

サスポルのニダプク洞窟

サスポルのニダプク洞窟

まず、サスポル村の切り立った崖を穿って作られた石窟「ニダプク」へ。この洞窟はいつ彫られたものかはハッキリしないそうですが、その内部に描かれた細密な壁画は「サキャ派様式」と呼ばれる13世紀ごろに流行した仏画の様式で、川﨑先生に寄ればネパールから仏画師を呼んで描かせたのではないか、とのことでした。お堂からは、麓のサスポルの村、そしてインダス川沿いにアルチの村を見渡すことができます。かつて遠くネパールからやってきた絵師はどんな気持ちでこの地で曼荼羅を描き、行者さんはどんな思いでこの風景を見ながらお堂に籠っていたのでしょうか。想像が膨らみます。

ニダプク洞窟からアルチ方面を望む

ニダプク洞窟からアルチ方面を望む

ニダプク洞窟の壁画

ニダプク洞窟の壁画

じっくり石窟を見学した後アルチへ。この地にはラダックの仏教壁画の中でも世界遺産級の貴重な壁画が残されています。壁画の盗撮を防止するため、入場する前にロッカーにカメラや携帯電話を預けます。ちょうど我々が荷物を預けたタイミングで、経典を抱えて歩く一団がやってきました。残念ながら写真に収めることができませんでしたが、経典で頭を軽く叩いてもらい祝福を授かりました。美しい壁画も良かったのですが、祝福を受けられた「ご縁」に皆様世論でいらっしゃいました。

午後はマンギュへ。ウレトクポでインダス川の橋を渡ってからわずか6kmなのですが、バスということもあり悪路と工事のため1時間もかかりました。ラダックでは幹線道路を離れると一気に道が細くなり、予期しない工事で足止めを食うことも少なくありません。
ガイドのスタンジンのコネクションなのか、僧侶の川﨑先生が同行しているからか、お客様の普段の行いのせいなのかは定かではありませんが、ここではすべての(4つの)お堂を開いて写真撮影も許可してくれ、カシミール様式の細密画のような壁画と巨大な塑像を拝むことができ、もちろん本堂では般若心経の読経も行いました。

マンギュ・ゴンパの曼荼羅

マンギュ・ゴンパの曼荼羅

マンギュゴンパの観音像

マンギュゴンパの観音像

ラダックの仏教僧院を訪れる

翌日は、ラダック有数の大僧院リキル・ゴンパへ。ガイドブックなどには百数十名の僧侶が修行していると書かれていますが、最近は本気で修行をする僧侶は南インドにあるゲルク派の三大僧院などに良い先生を求めて行ってしまうので、実際には数十名しか修行しているお坊さんがいないそうです。なんだか寂しい話ですが、南インドのほうが暖かく、食料も豊富で、過ごしやすいのでしょう。ここでは巨大な弥勒菩薩像と、麓にある僧侶学校で学ぶ小坊主たちが歓迎してくれました。彼らが良いお坊さんになるために、皆さんたくさんのお布施をされていました。ありがたいことです。

リキル・ゴンパの小坊主たち

リキル・ゴンパの小坊主たち

午後は、もう一つの仏教僧院リゾン・ゴンパへ。藤原新也の『全東洋街道』にも「戒律の厳しい僧院」として登場することで有名なお寺です。19世紀半ばにツルティム・ニマ・リンポチェ(なんとガイドのスタンジンのご先祖様)が創建し、その転生者のミイラを収めた仏塔が並んでいます。今回はサカダワ中という言こともあり、特にお願いをしてお坊さん、そして近くにある尼寺の尼さんたちに「お客様の健康を祝して」読経と祝福をしていただきました。尼寺からは、まだ小さな子供の尼さん(小尼さん?)もやってきて、可愛らしくお経を唱えてくれました。

リゾン・ゴンパ

リゾン・ゴンパ

リゾン・ゴンパの小尼さん

リゾン・ゴンパの小尼さん

ラダックのホテルは快適なんです!

最初に泊まったニンムは標高約3200m。ヘリテージホテルのニンムハウスで快適に過ごしていただきました。そして、上ラダックを回るのに合わせてレーにホテルを移しました。今度の宿泊先はラダック・エコ・リゾート。レーの北の郊外にあるリゾートホテルです。標高は約3,700m。さすがに500m上がると標高が上がったことを実感させられます。ちょっとお疲れの方は、酸素飽和度(Spo2)も、テンションも下がってきます。とは言え3,200mで2泊して順応は進んでいます。気力を奮い起こして気合を入れて深呼吸をしていただければ、グーンとSpo2も上がります。

ラダック・エコリゾート

ラダック・エコリゾート

ラダック・エコ・リゾートは、レーの郊外にあるため街中の喧騒とは無縁で、広い庭にぽつりぽつりとコテージが立ち並ぶオシャレな施設です。今回、お天気に恵まれすぎて毎日非常に暑かったのですが、毎日きちんとシャワーを浴びることができ、高度と暑さと埃で疲れた体を、きれいで快適なホテルの設備と美味しいご飯が癒してくれました。ラダックは近年新しくて快適なホテルが建設されています。ツアー代金ばかりでなく、どんなところに泊まるのか? ちゃんと見ていただきたいですね。 やはりツアーではホテル選びも重要だと実感しました。

ラダック・エコリゾートのお部屋

ラダック・エコリゾートのお部屋

お祭のクライマックスはティクセ・ゴンパ!

そして翌日は予定を変更してティクセ・ゴンパへ。なぜならサカダワ祭の最終日の大祭に向けて作られた砂曼荼羅が公開され、昼には破壇(砂マンダラを壊すこと)されるというのです。ティクセ・ゴンパはラサのポタラ宮を彷彿させるビジュアルで、私の「個人的 ラダックのお寺 見た目のカッコよさランキング」でトップ3に入るお寺です。(後の2つはチュムレ・ゴンパとスタクナ・ゴンパです。ザンスカールも含めるとプクタルゴンパも外せません!)
その勇壮な姿と、美しい弥勒菩薩像はラダックのガイドブックや紹介サイトなどでたびたび紹介されています。

勇壮なティクセ・ゴンパ

勇壮なティクセ・ゴンパ

そして「カッコいいトイレ ランキング」でもベスト3に入ること間違いないトイレで用を済まして本堂へ。この日は、大祭ということで普段は2階の廊下からご尊顔を拝すだけの弥勒様の足下に当たる1階も扉が開かれていました。滅多に見られない下から仰ぎ見るお姿も神々しい! そして護法神を祀る護法堂(ゴンカン)も公開されていて、多くの巡礼者で賑わっていました。参加者の方も、「中村さんが好きなお寺っていうのがよくわかりました」と非常に楽しんでくださいました。

世界一眺めの良い?トイレ

世界一眺めの良い?トイレ

ティクセ・ゴンパはチベット本土でもっとも勢力の強いゲルク派の僧院ということもあり、ラダック人のみならず、チベットから亡命してきた難民の方々が大勢巡礼に来ていたのが印象的でした。難民キャンプのあるチョグラムサルに近いということも関係あるのでしょうか? 

砂曼荼羅

砂曼荼羅

密教美術世界と大自然の景観のギャップ

グルラカンへの階段

グルラカンへの階段

ラダックの最終日は、ピヤンのグル・ラカンというお堂へ。ここもニダプクと同じように電気も点かない村はずれのお堂の壁にサキャ派様式の密教壁画がびっしりと描かれています。真っ暗なお堂の中に残されたおどろおどろしさ満点の壁画を見るには、数年前まで崖の急点かない坂を登らなければならなかったのだが、いつのまにやら階段や手すりができ、真っ暗だったお堂に電球がついていました。残念ながら写真撮影も禁止に。かつては真っ暗なお堂の中で懐中電灯を灯して見ていた密教壁画は、白日のもとに曝されて神秘的な感じが薄れてしまいました。
そこで川﨑先生にお経をあげていただいている間は電気を落としてもらいました。この薄暗いお堂の中で、カっと見開かれた大きな眼を持つ大黒天やガルーダなど密教の神々に見つめられると、違う世界に迷い込んでしまったように感じられます。読経を終えて、お堂の外に出るとそこはどこまでも澄み渡るような真っ青な空に、小さな雲が。そして村の緑がまぶしく光ります。

グル・ラカンから見渡すピヤンの谷

グル・ラカンから見渡すピヤンの谷


距離感が狂うほどの壮大でまばゆい風景と、暗く小さなお堂の中で無限に広がっていく密教世界。その大きなギャップに、文豪ゲーテの「光が強いほど闇も深くなる」という言葉を思い出しました。ラダックの、人間がちっぽけに感じられるほど厳しい自然環境に生きている人々だからこそ、自分の内面世界に真摯に向き合えるのかも知れません。そんなことを感じさせてくれたサカダワ祭のラダック旅行でした。

シェアする