添乗員報告記●自転車で行くチベット・ラサ7日間

文●寺山 元(東京本社)

ラサまで自転車?!2005年ゴールデンウイーク風のツアーラインナップの中でも、異彩を放っていたこのツアー。最初この企画を持ちかけられた時、「ほんとに出来るかな?」と思いましたが、そんなツアーだからこそ面白くも有り、やりがいがあるものです。実際ツアーはどうだったのか!ものすごくハードなツアー? いえいえ、でも、すごい旅でした。


 

 

村や畑の中をのんびり走る

休憩もたっぷりと

どんどん近付くポタラ宮

そして感動のゴール

高山病は大丈夫?

やはりまず浮かぶ不安はこれですよね。普通の旅行でさえ、高山病対策はひときわ注意を要するのに、そこで自転車に乗るのです!でもちょっと考えてみてください、例えばスーパーへ買い物に行くとき、自転車と徒歩、どちらが楽ですか?自転車をこぎながら隣の人と世間話などは出来ませんか?実は自転車は「最も体に負荷の少ない有酸素運動」なのです。弊社がご案内している高度順応のコツに「ラサについた日は無理をせず、でも積極的な高度順応のために散歩をしてください」とあります。この積極的な軽い運動には、自転車は最適なのです。ただ、坂を上ればもちろん息が切れますよね、そうなったら逆効果です。いくら負担の少ない有酸素運動といってもペース配分がとても重要です。そのような条件の中、今回のツアーの企画者でありガイドの丹羽さん(やまみちアドベンチャー)が絶妙のバランスをとってくれます。短い日程で安全かつ楽しく、そんな目的を掲げ達成感のある日程にすべく丹羽さんと練りに練った計画を準備しました。
まず初日は空港からツェタンに入り、午後に自転車の整備して幹線道路で足慣らし。2日目は、ツェタン近郊の村のゴンパまで自転車で散歩した後、車でラサの手前40kmのションセ村まで移動してキャンプ。3日目には、幹線道路の対岸のローカルな道を走り、一路ラサのポタラ宮を目指し、感動のゴール。4日目には、通常のラサ観光。ポイントで自転車に乗り、幹線道路は車で移動。ラサ近郊なのでレスキュー体制も取れるといった、実は万全のバックアップ体制と高山病理論に裏打ちされた企画なのです。

ポタラ宮が近付いてくる

ションセ村のキャンプで、おいしい朝食後、いざラサへ!前日大事をとって、自転車をパスしていた2人も元気に復帰。健脚コースとのんびりコースの2チームに分かれ、村の道をのんびり走る。麦畑がひろがり、家畜が草を食み、ヤクの糞を乾かしたりしています。空は高く、険しい岩山が背後に広がり、雲が流れていきます。まさにThat’sチベットです。普通のツアーでは味わえないのんびりとした自転車の旅。すばらしい風景の中、川原でピクニックランチ。無理なく順応できているのでみなさんすごい食欲!さらに進み、尾根を巻いた瞬間、目指すポタラ宮が見えてきました。まだ遠く、そして小さくですが、間違いなくポタラ宮です。ペダルを踏み、風を受けるたびに、どんどんポタラが大きくなっていきます。そしてついにたどり着きました。目の前に広がるそのポタラは、今まで何度も見たものよりひときわ大きく輝いていました。


歩くように旅する

今回何より印象的だったのは自転車で走ったツェタンの郊外やションセ村。車移動での通常のツアーでは通り過ぎるだけの「普通の村」。でもだからこそ日々の暮らしをつむぎだす人々の「原風景」があったのです。恐らくその光景には車で行っても出会えないのでしょう。想像してみてください、自分の暮らしている町に車で乗り付けて、降り立ったと思うとカメラを構える。そんな来客に心を許すでしょうか?でも自転車は、歩くようなスピードで、向こうからやってきます。先頭を走る丹羽さんは、言語越えた満面の笑顔で話しかけます、「タシデレ!」。面白い客人だと村の子供たちが追いかけてきます。また、坂道は大変だろうと、私たちを気遣っておばあちゃんが背中を押してくれます。さらに人のいいおっちゃんがお茶をすすめてくれます。胸いっぱいに薄い空気を吸い、チベットを旅していることを実感しました。何度も行っているラサ、必ず通っていた空港からの幹線道路。そのほんの数100m対岸に、すばらしいところがあったのです。

ショックでした。風の旅行社でチベットに添乗すること6回目、秘境中の秘境カイラスにも行き、接客、手配で関わったお客様は100名を超えるでしょう。私にとってラサはもっともメジャーな観光ポイントで、ある意味、発展著しい中国の影響を受けチベット色が年々薄れつつある現状を感じます。チベットの専門店を自負する当社としては、近年「ラサより先」を提案することに心血をそそぎ、さらに奥地へ、そしてもっとマニアック(?)にとチベットの「原風景」を求め、どんどんこってりした内容に偏っていったような気がします。ところが、求めていたものは彼方ではなく、こんな近くにあったのです。旅行のプロとして「自分は今までラサの何を提案してきたのだろう?」と、そんなショックを受けました。たぶん、世界各地の有名観光地もそこに到るアプローチをちょっと変えるだけでまったく違った旅になるかもしれません。われわれの旅行企画に終わりはない。そんなことを肝に銘じた旅でした。

※風・通信No.24(2005年秋号)より転載


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