先週の5月9日より、アテンドで佐渡を廻ってきた。同行講師は新潟大学名誉教授の崎尾均先生である。
昨年は「天然スギ」と「トビシマカンゾウ」が目的のツアーだったが、今年は春植物(花)が目当てである。佐渡の両津港到着後、牡丹が盛りの長谷寺(ちょうこくじ)に向かい、ちょうど田植え時期でゆるやかな棚田一面に水が張られ、とても美しい田園風景が続く。綺麗な牡丹を堪能した後、佐渡国一宮の渡津(わたつ)神社(主祭神・五十猛命)に向かった。小佐渡丘陵の中にある静かな神社で、傍に佐渡市立の小さな植物園があり、貴重な植物が植わっている。その後、江戸初期に起きた小比叡騒動で有名な蓮華峰寺(れんげぶじ・真言宗智山派)別名あじさい寺を訪ねたが、残念ながらアジサイはまだ蕾のままだった。寺伝では大同元年(806年)に空海によって開かれたとあるが、境内には山王権現社や小比叡神社、弘法堂などがあり最澄と空海が混在しており、司馬遼太郎の「街道をゆく10・佐渡のみち」によると「…おそらく創建のころは『小比叡』の呼称どおり天台宗であったのだろう。想像だが、いつのほどか真言宗の僧が住持となり…」と述べている。この日立寄った寺社には参拝客にまるで出会うことなく、静謐な時間を過ごすことができたのである。
翌日は、たくさんの春の花々を見ることができた。まだ二分咲きの千竜桜の根元付近には一面のカタクリが、足の踏み場もないように咲き乱れていた。午後はドンデン山に通ずる、アオネバ渓谷沿いの山道を歩き、念願のシラネアオイやオドリコソウ、オオイワカガミなどの春の山野草を堪能でき、全員、大満足で下山した。この三日間すべて曇りがちだったが、二日目の午前中、大佐渡スカイラインの展望台に立寄った時、本州の方面が一瞬明るくなり、なんと、飯豊山、越後三山、谷川岳、黒姫、妙高、火打、北アルプスの白馬などを見ることができた。そういえば、若いころ白馬から蓮華温泉に下り、バスで大糸線の平岩まで下る最中に“佐渡見平”というバス停があったことを思い出した。地図で確認すると蓮華温泉は新潟県糸魚川市にある。晴れれば相互に見えて当然なのだ。
三日目は、国指定の重要文化財の妙宣寺五重塔を見学し、トキを見に行った。この日の飼育されているトキは機嫌がよいのか見学する窓のすぐそばまできて、見学者たちに愛想をふりまいてくれた。さて、崎尾先生が残りの時間を「生のトキを見に行きましょう。難しいかもしれませんが、」と誘っていただき、人気の少ない田んぼまで行き、なんと三羽も見つけることができた。貴重な花々や生のトキも見ることができ、お腹いっぱいの旅であった。
さて、今回は世界遺産の「佐渡金山」には立寄らなかった。佐渡金山の坑道は全長400kmもあるという。前述の司馬さんの「街道をゆく・佐渡のみち」には“佐渡金銀山の光と影”が述べられている。若いころ松本清張の「無宿人別張」を読み、なんともいえない息苦しさを感じたのは、僕だけだろうか、鳥籠のような唐丸籠に乗せられて、相川の金山まで運ばれた“無宿人”たちの歴史は、よくわからないそうだ。佐渡には室町期に盛んだった時宗の鬼太鼓が伝わっている。それとは関係ないのだが佐渡には“田耕(でんたがやす)”率いる和太鼓の集団「鬼太鼓(おんでこ)座」があった。佐渡のみちには彼の話として「夜、浜辺に大太鼓を持ち出して、はるか沖合に向かって打つときなど、無宿人の霊が聴いてくれているような気がします」とある。「街道をゆく10・佐渡のみち」、ぜひご一読を。