俯瞰できない国

年度末になり2021年度の収支を示す数字と睨めっこをしている。昨年度もそうだったが、営業利益が殆ど立たないのに雑収入で収支のバランスをとっているような状態だ。雑収入とは、雇用調整助成金や持続化給付金などである。今日も復活支援金が入金された。しかし、バランスなど取れるはずがない。何とか凌げる赤字に収めているというのが正しい。銀行からも「こんな決算書は見たことがない」と昨年は呆れられたが今年も変わらない。

今、2年前を思い起こすととても不思議な感覚になる。あのとき長期戦を覚悟はしたが、それでも1年としか考えることができなかった。まさか、2年後こうしていることなど考えることもできなかった。専門家の皆さんは過去の感染症の例からしても3年はかかると言っていたし、国際航空運送協会(IATA)は、世界の航空便数が2019年の状態に戻るには2025年までかかると見通しを示していたが、そんな絶望的な見通しでは一歩も前に進めないと感じ見て見ぬ振りをした。

私の心の中のどこかで、“科学が進んだ今は過去とは違う。きっと何とかしてくれるだろう”という妄信や根拠のない期待感があった。まさに正常性バイアスが働いたとしかいいようがない。人間は“自分だけは大丈夫! そんな大ごとにはなりっこない!”といった暗示を自分にかけて自分の心の動揺を抑え込む。誰しもが保持している動物的本能ともいえる。

2年前の3月23日、小池都知事は記者会見を行いオーバーシュートへの危惧とロックダウンの可能性を語り日本社会に衝撃を与えた。その後2週間後の4月7日、政府は緊急時事態宣言を発出。海外にあるような強制力を持つ宣言ではないにも拘わらず、事実上ロックダウンに近い状態になり街から人影が消えた。3月26日、「水際対策に関わる新たな措置」が発表され、翌々日の3月28日からアジアの国を中心に11の対象国からの入国が止まった。同時に中国と韓国の査証免除措置が停止になり、以来、入国拒否措置は全世界の国々に拡大され日本は事実上の“鎖国”に入った。

今も外務省の海外安全情報の感染症危険情報は、殆どの国が危険度3(渡航中止勧告)のままである。ところが、厚労省の「水際対策上特に対応すべき変異株等に対する指定国・地域」は、僅か17か国しかない。それ以外は非指定国で、ワクチン接種とPCR検査陰性を条件に日本入国後の隔離もなくなっている。感染症に関する危険度とは全く対照的である。いったいこの矛盾はどう解釈したらいいのだろうか。

この国には、全体を俯瞰して方針を決める人がいないということなのだろう。日本旅行業協会は、危険度3では募集型企画旅行(ツアー)を実施しないという申し合わせをしている。悲しいかな、厚労省の非指定であっても外務省が危険度3にしている国へはツアーを実施できないのである。

最近、コロナのニュースもほとんど見なくなった。新聞だけ目を通していれば十分だ。雑音は要らない。今後はこの稿でもコロナのことは減らし、先日見に行ったメトロポリタン美術展や映画の話とか、中野の街の様子などあれこれ書こうと思う。“何をのんきな”と思われるかもしれないが、この2年間で、ものの見え方や感じ方が大分変わったように思う。そんな変化を自分でも確認してみたい。

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