悪い円安

最近、「悪い円安」という言われ方を耳にするようになった。今までは円安はすべて良い円安だったというから、私などは、そちら方に驚いてしまう。弊社のような海外ツアーの企画販売を生業とする旅行会社は、海外のホテル、レストランに仕入れ代金を払うから輸入業に当たる。だから円安は最悪であり、良いことは一つもない。

もちろん、日本は、原材料を輸入して加工し製品にして輸出する加工貿易国家だということは、中学校の社会科で学んだ。だから円安の方がいいに決まっているとは思うが、今でもそうなのかと少々首を傾げたくなる。何故なら、日本の企業は生産拠点を海外に移して日本国内は空洞化しているはずだ。海外で生産し日本に逆輸入すれば円安はマイナスになる。

一年以上前になるが2022年10月19日のNHKの「サクサク経済Q&A」では、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の「円安でメリットを感じる人は製造業でもほとんどいないと思う」という弁が紹介されていた。ユニクロは海外で生産し日本に輸入しているため円安は利益を下げる大きな要因だから、円安を止めるよう促すのも理解できるが、トヨタ自動車の豊田章男会長も「円安のメリットを受ける輸出の台数は10年前と比べるとおよそ2割減少している。一方、資材や部品の輸入が増えてきていることやエネルギー価格の高騰で、どちらかというと円安のデメリットが拡大しているのが現実だ」と述べたと報じている。加工貿易国家日本も大きく変わってきているようだ。

最近、日本は通貨が弱く国力が劣る南米やアジア諸国に似てきていると言われ始めた。何故なら、コロナ禍の内に、欧米諸国の物価や平均年収が日本の2~3倍になり、相対的に日本は酷く貧しくなったからだ。そこに円安が加わった。日本国内で暮らしている分にはあまり感じないが、現地に赴けば誰しも痛感するはずだ。

ところが、日本政府は、急激でコストプッシュ型のインフレを齎す円安は歓迎しないといいつつ、実はこの「悪い円安」をむしろ誘導しているように思える。円安のメリットを強調してインバウンド復活を謳い、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への進出に見られるような外資の日本投資を歓迎している。つまり、日本は、投資コストも賃金も台湾より遥かに安い国だということだ。

しかし、この貧しさは相対的なものであって、日本の国力そのものが衰えたわけではないはずだ。すべては、政府の舵取りと、世界の動きとは全く逆行する金融政策を採り続ける日銀が、今後、どう日本を軟着陸させるかに依るだろう。課題を解決して前進することは日本人のお家芸である。必ずや、キャッチアップし、そう長くない将来、必ずや、しっかりした歩みを取り戻してくれると信じたい。

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