【添乗報告記】●”うま”し国キルギスを堪能! 騎馬トレックで行く「草の海」ソンクル湖 9日間(2019年7月)

添乗ツアー名 ●騎馬トレックで行く「草の海」ソンクル湖 9日間
2019年7月19日(金)~7月27日(土) 
文・写真 ● 中村昌文(東京本社)


“馬”で楽しむキルギス

中央アジアと言うと、お隣のウズベキスタンのように、ステップ気候、オアシス、バザール、イスラム建築というイメージが強いのですが、キルギスは天山山脈の雪解け水を湛えた湖と、緑の草原が広がる、美しい騎馬民族の国。そのため、遺跡やモスクを訪ねるよりも、大自然の景観を楽しむのがおススメです。

特に美しい大自然の中を馬の背に揺られつつ、テントやユルタ(遊牧民の移動式テント)キャンプに泊まりながら馬で旅する「馬旅」は、キルギスならではの旅の楽しみ方として、近年注目されています。

ソンクル湖を望む丘の上から
ソンクル湖を望む丘の上から

今回訪れた「ソンクル湖」は、1年のうち2ヶ月しか訪れることが出来ない希少性と、雪山を背景にした高山湖とその湖畔に広がる大草原と家畜たちが織り成す美しい景観が、旅好きたちやバックパッカーなどの間では話題になっているものの、まだまだ「知られざる絶景の地」です。

通常は基点となるコチコルという街から峠道を越え、車で4時間ほどかけて訪れますが、このツアーはコチコルから騎馬トレッキングの基点となる村まで車で移動、そこから3400mほどの峠を馬で越えて1泊2日でソンクル湖にたどり着き、さらに湖畔でものんびり乗馬を楽しむという、とっておきの「馬旅」なのです。

まずは乗馬の説明を受けます
まずは乗馬の説明を受けます

まずは村で乗馬の基本を説明したあとは、てくてくと並足で進みます。最初の宿泊地キレムチェ・ジャイロは、美しい放牧地(ジャイロは放牧地の意味)です。キルギスの山の中にはこのような「ジャイロ」が点在し、普段は村に住んで小麦やジャガイモなどの作物を作っている人々も、夏の間だけ、家畜を連れてきて放牧する「半農半牧」のキルギスの伝統的な生活スタイルが展開されています。

そんなジャイロに遊牧民のユルタ(テント)を利用したキャンプがあります。電気も水道もないプリミティブな施設ですが、美味しい料理と温かなおもてなし、そして馬に乗った疲れで夜はぐっすり眠ってしまいます。

草原を抜けてジャイロを目指します
草原を抜けてジャイロを目指します
美しいキレムチェ・ジャイロの景色

2日目、峠に向かう急登を馬で上がっていきます。ちょうどお花の最盛期。ピンク、白、黄、紫など色とりどりの花が咲き乱れています。

峠に到着。振り返れば昨夜泊まったキレムチェジャイロが! そして、前方には目指すソンクル湖と、その対岸の雪山が見渡せます。お天気もよく、絶景を楽しみながら、草原で大の字になりました。軽い疲労が心地よく感じます。

峠からの急な坂道を下り、ソンクル湖に流れ込む川のほとりにたたずむキャンプに到着すると、周辺にはエーデルワイスが雑草のごとく咲き乱れています。

その後キャンプを基点に、周囲の丘に登って展望を楽しんだり、湖畔までのんびり足を延ばしたりと、馬の旅を楽しみました。

バックパッカーたちがタクシーで乗りつける湖の入り口付近の賑やかなキャンプ村とは違い、峠を越えて馬で辿りつくのは、少し奥まった静かなキャンプです。周囲には多くの羊、牛、馬、ロバなどの家畜が草を食み、雰囲気は「放牧地」そのもの。

馬で旅するからこそ、キルギスが遊牧騎馬民族の国だということが、文字通り「体感」出来るのです。これぞ”馬”旅の醍醐味です。

キルギスは“美味”いの宝庫!

今回の旅で、参加者を楽しませてくれたのは、とっても“うま”い、キルギス料理です。

キルギスは天山山脈の国。天山の高峰には雪が降り、氷河を形成します。春になるとその雪解け水は、周囲の大地を潤おし、豊かな恵みを与えてくれます。そのためキルギスは山岳国家でありながら中央アジアの国の中でも農業が盛んで、ジャガイモ、小麦、トウモロコシ、果物(特にベリー類)などが主要な農産物です。また豊かな草原を利用した牧畜も盛んで牛乳や牛肉、羊毛を輸出しています。そんなキルギスは美味しい食材がふんだんにあるのです。

さらに、中央アジアは東南には中国が、西北にはカザフスタンをはさんでロシアの2つの大国があり、その食文化が混ざり合うところでもあります。帝政ロシア、ソ連時代に、多くのロシア系住民、テュルク系住民が移住したため、キルギスは多民族国家でもあります。国内にウズベキスタン人、カザフスタン人、ウイグル人、ドンガン人など近隣諸国の食文化の伝統も保持しているので、料理のバリエーションも多く、美味しいものの宝庫でもあるのです。

遊牧民の国キルギスでは「毎食肉ばっかり」と思われる方も多いかもしれませんが、毎食しっかりとサラダが出てきます。そしてそのバリエーションもなかなか豊富なのです。例えば、中央アジアではボルシチに代表されるロシア料理も多く食べられていますが、そのボルシチの材料となる赤カブ(ビーツ)のサラダ。軽い酸味が癖になります。沖縄料理のシリシリのようなニンジンのサラダは、19世紀から20世紀初頭に朝鮮半島や中国東北部からロシアの沿海州に移住して、その後中央アジアに強制移住させられた朝鮮系の人々の料理です。

また、キルギス(カザフ)旅行では、毎朝のホテルの朝食も楽しみの一つです。毎朝食卓には新鮮な乳製品、ハム、ハチミツ、ジャムなどがずらりと並び目移りしてしまいます。

ドンガン料理

ラグマン

ラグマンは中国語のラーミエン(拉面)が語源と言われるウドンのようなコシの強い太い麺にトマトと肉とタマネギなどを煮込んだソースをぶっ掛けて食べる麺料理。水気の少ない野菜炒めのようなソースをかけるのがウイグル風です。

ガンファン

ドラグマンの麺がご飯になったのがガンファン。汁なし麺のことを中国語で「干麺(ガンミエン)」と呼びますが、麺(ミエン)が飯(ファン)に代わったのでガンファンなのかな?と想像しました。

マンティ

中国のマントウ(馒头)が語源だが、羊肉とタマネギがたっぷり入った肉まんや餃子のこと。スープに入れたり、焼いたり、蒸したり、バリエーションが豊富です。

名前から分かるように中国の影響が強い料理です。ドンガン人とは清朝に迫害され中国から逃げてきた中国化したイスラム教徒=回族たちのこと。加えて中国との国境をまたいで活躍してきたウイグル人が中央アジア諸国に広めました。ちなみに、絡めて食べる唐辛子ソース(「食べるラー油」みたいなもの)のことをラーズジャン(辣子酱)と呼んでいましたがこれも中国起源ですね。

ロシア料理

カーシャ

ロシアの朝食の定番でミルク粥のことです。お米だけでなく、オートミールなどでも作るようです。日本人的には塩を入れてしょっぱく食べたいところですが、現地では砂糖をかけて激甘で頂きます。

私は塩でも砂糖でもなく、バタークリームをたっぷり入れていただきました。
毎日パン食も飽きるので「やっぱり日本人はご飯だよね」と実感。騎馬トレッキング中のキャンプで出たので、とても喜ばれました。

キルギス料理

ドゥンダマ

キルギス風の肉じゃが。肉をしっかり炒めたあとで、たっぷりの野菜と油で蒸し煮にします。基本的に水は入れずに野菜から出る水分で蒸すのだそうです。肉の脂が溶け出して野菜も肉にもしっかり味がしみこんでいて本当に美味しいです。私の一番好きなキルギス料理。

シャシリク

シャシリクはロシア語で、テュルク語では、いわゆるシシカバブのこと。羊肉だけでなく、牛肉もよく食べる。これぞ中央アジア!と言う感じでテンションが上がります。

ベシュバルマック

キルギスの名物料理の1つで、「5本の指」を意味する麺料理。以前は手で食べたのでこの名がついたそうです。茹でた麺と細かく切った肉を混ぜ合わせたもの。肉は羊が多いがこのお皿は牛肉。肉を煮込んだスープが付け合せに出てきました。


今回の旅でも、最初から最後まで皆さんの「おいしーい」の声が止まらず、ボソッと「こりゃ太って帰っちゃうな(笑)」といううれしい悲鳴も絶えず聞こえてきました。旅先で「何をするのか」も大切ですが、「何を食べるのか」も重要です。

さすが中央アジアの農業国キルギス。肉ばかりでなく野菜や果物、そして香草類などが食卓を彩ります。今回、実際に食卓に乗った料理をご紹介しましたが、本当に1食も外れ無しで、毎日食べすぎを心配し、食べ過ぎたら馬に「タダでさえ重いのにごめんな」と謝りながらの騎馬トレッキングでした。

キルギスでは「馬」と「美味い」、2つの「うま」をお楽しみ下さい。