第144回●ケチュ ~洗濯物が乾く街~

桜の咲く小諸の街

昨年、小諸に住んでいたとき、東京からライターさんが取材に訪れ、小諸の魅力はなんですかと問うた。おそらく「自然が豊かで、夏が涼しくて、人が優しくて、温泉があって」というキャッチーな答えを期待していたのだろう。だからこそ根っからの天邪鬼な性格の僕はあえて「信州・長野だったらどこでも自然も人も温泉も素晴らしいから、小諸だけの特徴にはなりませんよ」と答えて困らせてみた。そして「小諸の魅力は東京から高速バスが1日10本以上走っていて3時間で着くことと、日照時間が他の街よりも確実に長いことと、なによりも洗濯物が乾くのが驚くほど早いことです」と外から移り住み、実際に生活しているからこその喜びを話してあげたが、若いライターさんにはいまひとつピンとこなかったようだ。

小諸は薬草を乾燥させるのには最適な気候

街の自慢を抽象論としてではなく、旅行客や移住者を引き付ける確実な魅力にするには、他の街よりも「確実に」「飛び抜けて」優れている点(チベット語でケチュ)をアピールしたほうが、わかりやすい。よく「薬草が豊かだから小諸を選んだのですか」と聞かれるが、これも、正直なところ信州ならどの街も村も薬草が豊かである。しかし、これだけは自信を持って言える。日照時間が長く、降水量が少なく、標高が高いおかげで薬草がとてもきれいに乾燥できるのだ。東京育ちの妻は「洗濯物が早く乾くのだけは(冬は寒いけれど)、ほんとうに気持ちがいい」と小諸生活の明確な利点を実感していたものだった。だから、都内のハーブ会社さんや食品会社さんは小諸に倉庫を構えてみてはいかがだろうか。保管に除湿機もクーラーもいらないし、都内へは自家用車なら2時間半で行き来ができる利点がある。事実、クーラーや除湿機が普及する以前、映画会社のフィルムの保管場所を小諸近郊に作る計画が持ち上がったことがあったという。


もう1つ、小諸が位置する標高600mから1,000mは健康にもっともいいという説があり、事実、お隣の佐久市は世界的な長寿都市で有名だ。小諸も佐久市同様に長寿の方にたくさんお会いする。そういえば隣の御代田町や佐久市同様に小諸市にも縄文遺跡が出土している。つまり、もともと人間は標高700mくらいの高地にみんな仲良く暮らして、1,000m付近の薬草や山菜を採取する生活が健康的だったのではないかという仮説を立ててみた。そして、小諸にはその名も「1,000m道路」が標高1,000mに沿って走っている。春には山菜、秋にはキノコや朝鮮五味子など、この道路周辺は特に豊富に採れる。そしてきっと1,000mより上は熊や鹿たちが暮らす森だったのだろう。

薬草を探して掘る

同じように、チベット医学の特徴を語るとき「自然の薬草を使い、患者の心に寄り添う。現代医学に治せない難病に効果がある」などという抽象的な決まり文句はすでに使い古された感がある。自然の薬草なら、日本には漢方が根差しているし、現代薬だってもともとは自然の草や土、鉱物に帰することができる。「優しい心」という漠然としたファクターを比べること自体が無理な話である。では、チベット医学にあって、現代医学にないものは何かと問われたとき、僕は「チベット医は自ら山に入り薬草を探し出し、薬を作りだすことができる」と答えている。つまり歩く、探す、作る、ことに関しては確実にチベット医が現代医よりも優れている。   

小諸であれチベット医学であれ、まずは、みんながガッテンできる確実なポイントを押さえつつ、それを端緒として次第に多様な魅力を伝えればいい。そして①標高1,000m道路が走り、②薬草が綺麗に乾燥でき、③東京からのアクセスがよく、④チベット医である小川が慣れ親しんだ街(ヨイショですいません)。この4つの条件がすべて揃っている街は「確実に」小諸しかない。もちろんその上で、温泉があって、蕎麦が美味しくて、人が優しいのはいうまでもないこと。そんな小諸は薬草の街にもっともふさわしいといえないだろうか。

昨年の観察会講座の様子

と、ここまで力説したのは10月の小諸での講座にお誘いするためでした。ぜひ、ご参加ください。標高1,000mでお会いましょう。


小川さんの講座情報



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