第159回 ロセル・リン ~台湾人のともだち~


ダラムサラの風景

つい先日、懐かしい友人からメールが届いた。「はーい、カンチ(注 僕のこと)。いま、旅行で京都に来ているの。あなたに会いにいきたいけどお金も時間もなさそうね。東京行の切符を送ってくれたら会いにいってあげるけど(笑)」。差出人は台湾人のドルマとヤンチェン。いまは台湾のチベット仏教組織で働いているという。少し皺が増えた(失礼)添付写真の顔を眺めながら、僕が最初にダラムサラに渡った年のことを思い出していた。

ロセルリンの僕の部屋

 1999年1月、はじめてダラムサラに到着すると(第20話)、僕はとりあえずロセル・リンというゲストハウスにチェックインした。ロセルは「明晰な心」、リンは「広場」という意味。1泊50ルピー(当時のレートで150円)はインドでも安い部類に入る。ベッドと机だけの簡素な部屋はゼロからの出発をする当時の僕に相応しい。ここはデプン寺の宿坊にあたり、働いているスタッフは袈裟こそ着ないが、みんな立派な僧侶(雑務僧)である。朝夕の清掃は修行のごとく行き届いていて、いつも館内は清潔に保たれていた。結局、メンツィカン入学までの3年間、ここを拠点に生活することになる。当時、この宿で知り合ったオーストリア、イスラエル、スイス人と意気投合し、まるで家族のようにロビーでお喋りしていたものだった。おかげでまったく寂しさを感じることなく、生まれて初めての外国暮らしを始めることができたのは感謝している。

ロセル・リンGH. 左端は僕で右端がヤンチェン(2000年ころ撮影)

そのなかでも、いちばん仲良くなったのは台湾人のドルマとヤンチェンだった。野球やドラマなど、日本と台湾の共通話題がたくさんあったこともある。ある日、ドルマが「オガワ、いいから、黙ってついて来なさい」と強引なまでに連れて行かれた場所はダライラマ法王のパレスだった。いまでは考えられないが、当時は2カ月ごとの頻度で法王との謁見・握手会が開催されており、あのときは500人ほどの外国人が並んでいただろうか。当時まだ信仰心が薄かった僕は、実のところ謁見に興味がなかったのだが、「牛に引かれて善光寺参り(第147話)」のごとく、ドルマに引かれて法王と握手をさせていただく機会を得たのである。本当に感謝している。

 ダラムサラには世界各国からチベット仏教を学びに訪れる。歴史的に交流の長いモンゴルは別格として(第95話)、次に盛んなのは台湾、そして韓国、最近はロシア文化圏(カザフスタンなど)、ずーっと差が開いて日本である。また、ダライラマ法王は台湾には政治的な問題があって訪問できないことから、その分、ダラムサラで開催される法王のティーチングには驚くほどの台湾人(最大で800人ほど)が訪れて、小さなマクロード街は中国語であふれかえる。また、亡命チベット社会のお寺や学校の多くは諸外国からの寄付で建てられており、これも台湾が寄付の額と件数で他国を圧倒している。建物の入り口には、たいてい寄付者の国、組織、名前が書かれているので注意してみてほしい。ちなみに、日本人もチベット社会に貢献している。たとえば、メンツィカン病院の本院は日本人歯科医、故・山本先生の寄付。TCV(チベット子ども村 第42話)内にあるSHOGOホームは、歌手・浜田省吾さんの寄付である。

SHOGOホームに掲げられた浜田省吾

 台湾でチベット仏教が盛んな理由の一つに、亡命チベット人のなかに中国語を母語のように話せる知識人が多いことが挙げられる。たとえば、台湾でチベット医学が広まっているのは、かつての院長ダワ先生が中国語を流暢に話せたという要因が大きい。また、台湾の仏教組織が長期的視野にもとづいて、ダラムサラのツェンニー大学(第148話)に学生を派遣し、すぐれた通訳、翻訳家を育てていることがあげられる。法王の日本語通訳といえばマリア・リンチェンさんお一人だけだが、台湾には、ツェンニーを優秀な成績で卒業したジャムヤンをはじめとし、数名の卒業生が控えていて層が厚い。ダラムサラのティーチングに参加する機会があったら、台湾ブースの通訳者に注目してみてほしい。ツェンニーを卒業するには10年かかり、外国人は躊躇してしまう。しかし、台湾のように10年間の生活を支えてくれ、将来の活躍の場が設定されていれば、やる気が湧くというものだ。彼女たちはそんな仏教団体でいまも働き、チベット仏教布教に一役を買っている。
ダラムサラにいったら、チベット人だけでなく台湾人のひとたちとも交流を深めてみてはいかがだろうか。野球やドラマだけでなく、チベット仏教を通じて交流が深まる日が来たら素敵だなと思っている。


台湾ではTVドラマ『東京ラブストーリー』が大人気だったことから、当時、僕は「カンチ(織田優二の役名)」と呼ばれていた。織田裕二ファンのみなさんすいません。


彼女たちは敬虔なチベット仏教徒なことから正式なチベット名を持っている。

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