第173回 テプ ~本を大切に~

第151話)だけに限った話ではない。たとえばメンツィカンの同級生たちは医学の解説書を手に入れると、まず、何をさておいても新聞紙など適当な紙を見繕ってブックカバーを上手に作りはじめる。

第87話)。それはちょうど100年前にチベットに渡った多田等観(1890-1967)による述懐からもうかがい知ることができる。

私は初め、(お尻を拭くのに)日本から送られてくる新聞紙を使っていたが、チベットの人たちは、どんな文字でも三字以上字の書かれてあるものには、必ず仏があるから、仏で尻をふくとはけしからんという。そこで新聞紙も使えないことになり、石ころを拾ってきて使うと、うまく落ちるようになった。『チベット滞在記』(注2)

それほどまでに文字を大切にするチベット社会のなかで10年間暮らすうちに、自分も知らず知らずのうちにチベットの文化が宿っていたようだ。その無意識なまでに内在されていたチベット文化が、これまた無意識のうちに、身近な人に伝播してしまうことに、あらためてチベット文化の-それは身震いがするほどの-底力を感じたのである。チベットの智恵、文化が何百年のときを越えて受け継がれてきた理由を、こんなささいなやりとりから感じることができた。そして、自分がかつてチベット社会で暮らしていたという事実を、まるで他人事のように「はっ」と思い出させてくれたのである。

ちなみに、僕がいつもブックケースに使っているのは、何を隠そう、風の旅行社のロゴマーク入りビニールケースである。これが、実にちょうどいい大きさで使いやすい。みなさん、ツアーが終わったら、ぜひ、ブックケースとして活用してみてください。風のビニールケースが「知識を大切にする」チベット文化を受け継いでいくなんて、ちょっと素敵ではありませんか。

注1
2013年4月から早稲田大学文学学術院の教育学コースで勉強しています(第129話)。授業ではルソーの『エミール』や、デューイの『民主主義と教育』などの教育哲学書を学んでいました。40歳を過ぎてから、20代の学生たちと一緒にはじめて学ぶ哲学はとても新鮮です。

注2
多田等観 牧野文子(2009)『チベット滞在記』講談社学術文庫。p.200


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