第10話 ザンスカールを行く2 <続き>

パドゥム
私 ザンスカールの中心パドゥムの町に着いたのは夜でしたね。朝起きて町中を歩いてみると、開発が進んでいて、インドの小汚い小さな街って感じでちょっと残念でした。開発の前に、都市計画をしておけばよかったのに。でも、インド人に言っても無駄ですね。

宮 ただ丘の上から見るとチベット文化圏の家に見えるんだけど。どうしてインドでは、どこへ行っても、このように小汚くなってしまうんでしょうか?

私 旧王宮のある丘の麓にある家の中で、大きな岩にくっついているような家がありましたね。

宮 まるで家から岩が生えているみたい。

パドゥムの岩が生えた家(パドゥムの岩が生えた家)

私 超芸術トマソンか!

編注:「超芸術トマソン」とは赤瀬川原平らの発見による芸術上の概念。不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物。創作意図の存在しない、視る側による芸術作品。語源は、元読売巨人軍の外人助っ人のトマソンに由来する。この巨人軍のトマソンが前評判の割に、役に立たなかったため、無用の長物のことをトマソンというようになった。

サニ寺
パドゥムから車で20分のところにあるサニ寺は、ラダック、ザンスカールでは珍しく平地にあるお寺で、カギュ派の開祖マルパの師匠でインド人のナーローパが修行したとされる場所に建てられた寺。

宮 サニ寺の仮面舞踏のお祭りナロ・ナスジャルはよかったですね。チベット文化圏の仮面舞踏はたくさん見ているけれど、このサニ寺は、背景も田舎のたたずまいで写真の撮りがいがありました。ただ、この日は、風が強くて砂埃が待っていたのが残念。

サニ寺の祭りに来た村人(サニ寺の祭りに来た村人)

私 観劇に来た村人たちを見ると中年女性でトルコ石の頭飾りを着けている人は2,3人しかいなくて、後は、申し合わせたように茶色い毛糸の帽子をかぶっていたのが残念でしたけど。それに若い女性のほとんどがパンジャビ・ドレスを着ていました。

宮 お祭りの日には、伝統的な民族衣装を着てほしいけど。とは言っても、いかにも村祭りって感じでした。村人も僧侶とともに、踊っていましていましたね。カラスのお面を着けていた村人もいました。

サニ寺の祭りでカラスの仮面を被る村人(サニ寺の祭りでカラスの仮面を被る村人)

カラスの護法神(カラスの護法神)

サニ寺黒帽子の舞(サニ寺黒帽子の舞)

私 ドゥクパ・カギュ派には、マハーカーラの眷属でカラスの顔をした護法神チョキョン・チョロクドン神がいるそうです。

宮 サニ寺のグル・ラカンの壁画は、絵心のある人には、興味をそそるのでは。剥落具合も、よくて、一部高松塚古墳みたいな。

サニ寺の壁画(サニ寺の壁画)

私 でも、壁画が描かれたのはそんなに古くないとのことですが。ゾンクル寺のシェパ・ドルジェ(17世紀の高僧)が書いたそうです。 サニ寺の裏にある石仏もよかったですね。

サニ寺裏の石仏(サニ寺裏の石仏)

宮 円空仏みたいな素朴なお顔で。見ているだけで気持ちがやさしくなるような。

私 ムルベクの磨崖仏に比べると技術は稚拙だけど。時代はどちらが先かは分からないですね。

スタクリモ寺
宮 パドゥムの町はずれの丘の中腹にあるスタクリモ寺の境内は、林が心地よかったです。

私 お堂の前には、なぜか白熊の剥製が。北極熊?

スタクリモ寺の白熊(スタクリモ寺の白熊)

宮 熊の白子でしょう。

私 スタクリモ寺の名前の由来は、スタク(虎)+リモ(絵)だそうで、その絵とは、寺の下にある縞々模様の岩のことだそうで。

宮 その岩にへたくそな眼が書いてあって、あれじゃまるでガマガエル。眼を書かなければよかったのに。

スタクリモ寺下の虎岩?(スタクリモ寺下の虎岩?)

私 スタクリモ寺は、動物以外でがんばってほしいですね。

宮 寺の上の丘かからの眺めはよかったじゃないですか?ピピティン寺が印象的で。

スタクリモ寺からの眺め(スタクリモ寺からの眺め)

カルシャ寺
宮 カルシャ寺はヴィジュアル的にインパクトが強かったです。遠くから見ると白い岩肌のようだけど、近づくと垂直に近い崖に寺院がへばりついていた。天空の寺院って感じでした。

私 急峻な崖の斜面によくあれだけのお堂と僧坊を建てましたね。チベット自治区で似たようなお寺は、ディグン寺でしょう。ディグン寺も文革以前は、大規模な僧院だったのでしょうが、いまでは、一部しか再建されていないので、カルシャ寺の規模のほうが圧倒的に大きいですね。わたしもチベット文化圏の大きなお寺をたくさん見てきましたけれど、このカルシャ寺の僧院の規模は別格です。

遠くから見たカルシャ寺(遠くから見たカルシャ寺)

宮 カルシャ寺の下にある最初のお堂の弥勒石仏は、後世に彩色されていて、もとの姿がわからなくなっていた。すこし残念。

私 ラブラン堂の壁画も圧巻でした。アルチ寺スムツェク堂の壁画がチベット文化圏で最高峰だとすると、次のランクとしてギャンツェのクンブム・チョルテン、グゲのツァパラン紅宮の壁画と並ぶできばえではないでしょうか?壁画の補修で、太くて黒い縁取りがしてありましたが、私個人としては好きなタイプの絵になっていました。

カルシャ寺ラブラン堂の壁画(カルシャ寺ラブラン堂の壁画)

黒い縁取りが珍しい(黒い縁取りが珍しい)

宮 カルシャ村から、見た景色も壮大でしたね。

カルシャ村からの絶景(カルシャ村からの絶景)

私 パドゥムの南にある山々が高く見えて、パドゥムから見る景色と大違いでした。カルシャは、寺院、壁画、景色のすべてが5つ星クラスで、ここまでそろっているのは珍しいのでは、ほかにすべてが、そろっていたのは、グゲのツァパランでしょうか?ただし、ツァパランは、僧侶がいなくて、遺跡になっていました。その点カルシャは活きた僧院ですから。

(カルシャ僧院長にインタヴューしたので、後日ブログにアップしたいと思います。)

ジュチクシェル寺
私 高木辛哉さんの著作「ラダック(旅行人ウルトラガイド)」では、このお堂の十一面観音のことをまるでサーティワン・アイスクリームのようにてんこ盛りに顔が縦にならんでいると表現していましたが言いえて妙ですね。他のチベット仏教寺院では、十一面観音の頭は、上に行くほど小さくなっていくのですが、ここでは、上についている頭が下の頭より少しだけしか小さくなっていなくてまるでトーテムポールとか、ダルマ落としみたいになっている他では見ないようなデザインでした。

トーテムポールのような十一面観音(トーテムポールのような十一面観音)

私 それにブキミ系の変な動物もいました。

変な動物(象か?)(変な動物(象か?))

宮 また、動物落ちですか。壁画も見事でした。古い壁画で保存状態もわりとよくて。お寺の近くにある仏塔と、上にある仏塔の内部の壁画も見逃せませんね。

私 近くにあった尼寺も、尼さんたちが熱心に学習、修行に精を出していました。
(尼さんへのインタビューも後日掲載予定です。)

ゾンクル寺
私 ゾンクル寺へは、パドゥムからの距離はそれほどないけれど道路事情が悪く、2時間もかかりましたね。ナーローパが修行した洞窟がもとにあった寺院で、洞窟の中と外側に寺院が建立されていました。

宮 ここもドゥクパ・カギュのお寺で、ザンスカールのさまざまな寺院の壁画を描いているシェパ・ドルジェがいたお寺です。

私 シェパ・ドルジェは、仏像製作の技も持っていてここの小さな仏像や祖師像も、よく見ると表情まで豊かでした。

ゾンクル寺のナーローパ像(ゾンクル寺のナーローパ像)

宮 チベット絵画や、仏像に興味がある人にとってはよいお寺でしょうが、狭い峡谷に建っているので寺院の外観はそれほど魅力的ではありませんでした。

トンデ寺
宮 カルシャ寺に次ぐ大きさのゲルク派寺院トンデ寺は、寺院のある丘の上からの眺めがよかったです。とくに下の村の畑が抽象絵画みたいで。でも寺院内部は、魅力に乏しかったですね。

トンデ寺の小坊主(トンデ寺の小坊主)

私 トンデと聞くと
http://www.kaze-travel.co.jp/chuzainikki/?p=214#more-214
を思い出します。あの頃は若かった。

ザンラ
私 ザンラ村では、ザンラ王に会うことができましたね。王様は、在日チベット人のペマ・ギャルポ教授の姉(故人)と結婚していたそうです。

宮 王様といっても、村のおじさんといった感じ。元開発局のお役人さんだそうで。英語がペラペラでしたね。

私 チベット語のギャルポを直訳すると王様ですが、地方領主と訳したほうがいいですね。王様が住んでいる家も王宮というよりちょっと大きめの民家で王様に会いに行くとか、王宮に行くんだと期待して行くとがっかりですが。

宮 でも、心よくもてなしてくれましたね。インタヴューもとれましたし。

パルダン寺
宮 パドゥムからプクタル寺にトレッキングへ行く途中、車で行ける場所にパルダン寺がありました。川原に丘が突き出ていて、要塞みたいな堅固な造りの寺院でした。

私 見る角度によっては、マグリッドの絵「空に浮かぶ城」を思い出しました。

宮 バルタン星人に似てるとか言わないでくださいよ。

私 バルタン星人の名前は、シルビー・バルタンから取ったんですよ。

宮 何その薀蓄?

パルダン寺(パルダン寺)

プクタル寺
私 カルシャで驚いたけれど、プクタル寺も非常に印象的でした。カルシャ寺をチベット文化圏のお寺の中で上位ランクに位置づけましたが、プクタル寺も忘れてはいけませんね。

宮 中心となる洞窟も大きくて、ゾンクル寺のように、手前に建てられた寺院が洞窟を隠すことができないくらいです。

プクタル寺遠景(プクタル寺遠景)

私 カルシャ寺よりも急峻な崖に僧院と僧坊が建てられていてどの角度から写真を撮っても絵になりました。寺の中に入ると迷路みたいでそれはそれで楽しめました。

宮 背後の山の色も、赤銅色と緑青色の岩で幻想的な色のバランスでした。ここは、きっと仏教寺院が建立される前、太古の昔から聖地であったのでしょう。いまでも十分パワーが感じられます。

プクタル寺背後の赤と緑の山(プクタル寺背後の赤と緑の山)

私 プクタル寺への行き返りの渓谷も赤い色の岩山で聖地巡礼って感じが強かったです。

宮 将来、パドゥムからマナリへの車道が通ったら、間違いなくプクタル寺は、ラダック・ザンスカールの観光名所となりますね。

私 笑うかどにはぷくたる。(福来るの省略形)

ザンスカール出身日本語ガイド・スタンジンと行く

インド最奥の「信仰の里」 ザンスカール10日間

出発日設定2019/09/14(土)
ご旅行代金422,000円
出発地東京