第97回●ポソチャ ~ブータンの食文化~

tibet_ogawa097_3市場でエマダツィを食べる唐辛子売り

ブータンでは日本には見られない薬草文化に触れることができる。たとえばヤドリギをお茶にして飲む習慣がある。ヤドリギはケヤキなどの高木に寄生し、ポンポンのように丸く生育する植物。夏は寄生主である木の茂みに覆われて分からないが、冬に木の葉が落ちるとその姿を現す。去年、ティンプーの市場で売られているのを見つけたのに試飲するのを怠ってしまったのはなんとも悔しい。今年こそは飲んでみたいものだ。四部医典には特にその名前も効能も記されていないが、もしかしたら「ヤドリギのように、誰かに寄生することに長けてくる」なんて効能があるかもしれない(笑)。

tibet_ogawa097_4ポソチャ

ポソチャというランの仲間は食用に用いられる。こちらも木に寄生して伸びる植物である。四部医典には「ポソチャは病をすべて上に引っ張り、吐き出させる(論説部第20章)」とあるが、果たして古代と現代のポソチャが同一のものかどうかは意見が別れるところである。こちらも去年、食べなかったので試してみたいと意気込んでいる。

tibet_ogawa097_6エマダツィ

ブータンでもっともメジャーな薬草であり食材といえば唐辛子。ブータン語でエマ、チベット語でスィペンといい、四部医典には「唐辛子は、その力が火と似ており、胃の火熱を高め、中程度の浮腫み、痔疾、寄生虫病、ハンセン病を癒す(同上)」と記されている。ブータン人は毎食のようにエマダツィと呼ばれる唐辛子チーズ和えを食べるのである。2006年、はじめてエマダツィを見たとき「ピーマンのチーズ和え」と勘違いして思いっきり頬張ったところ死にそうになったものだった。昨年2010年のツアー(第76話)中、みんな最初は恐々食べていたけれど、最終日には「エマダツィがないと物足りないよね」とこちらから注文して、1皿をツアー参加者4人がかりで完食することに成功した。ちなみにブータン人でも、しばらくエマダツィを食べないと最初は辛くて食べられないらしい。チベット文化圏は比較的、食文化が似通っているものだが、なぜ、ブータンにだけ唐辛子を食べる特殊な文化が根付いたのだろうか。もしかしたら薩摩弁が特殊なおかげで他藩からの間者(スパイ)がすぐに発見できたように、エマダツィを食べられないことで他国からのスパイを判別するためかも・・・ということは多分、ないと思う。唐辛子をぶっかける米には白米、赤米、黒米があり、僕が見た範囲では一般の人は赤米をよく食べていた。日本では赤米は縄文米として有名だけれど、日本のルーツはブータンにあるのだろうか。

ルーツといえば納豆に似たキネマという食べ物がある。ただしブータンよりは、むしろ西側のシッキム・ダージリン地方でメジャーな食文化のようだ。大豆を発酵させ糸が引くあたりは納豆と同じであるが、ご飯と一緒に食べるわけではない。2001年にダージリンを旅行した際に市場で見つけて食べてみた。野性的な納豆という感じだった。

tibet_ogawa097_2ブータン蕎麦

蕎麦はクレープ、もしくはパスタのようにして食べられる。去年のツアー中、レストランが僕たちに気を利かせて、わざわざ日本風・ザル蕎麦にしてくれた。しかし、大変、申し訳ないことに外国で食べる「日本風」ほど残念なものはない。醤油とウイスキーのブレンドで作られた麺汁は不気味な味だった。日本人が教えたそうだが、多分、彼らはみりんか何かと勘違いしていると思う。ブータン風に蕎麦にチーズをかけて食べた方がよかったとレストランに苦情を言ってきたので、今年は大丈夫だろう。

tibet_ogawa097_1マツタケ

ブータンではマツタケが豊富に採れるが、地元の人はそれほど喜んで食べないのはもったいない。2006年の国際伝統医学会議(第70話)のとき、日本からの参加者に山盛りのようにマツタケの網焼きが振舞われたことがあった。しかし、どうやら、マツタケは香りと共にその貴重さを楽しむもののようだ。「まだ、おかわりありますよ」という声に誰も手を上げる人はいなかった。あれ以来、僕の中でマツタケの希少価値が下落し、執着心がなくなったのは良かったのか悪かったのか。

そのほか新たな薬草文化として紅花の栽培が行われている。その紅花にシナモンを配合した「ツェリンマ(長寿の神様の名前)」という薬草茶を伝統医学院が中心となって販売しているので是非、お試しいただきたい。ちなみに四部医典には「紅花は、肝臓の病を全て癒し、脈口を締める(同上)」と記されている。

その国を知るには、その国のものを食べるのが一番。さあ、知られざるブータンの一面を味わいに出かけませんか。みなさんの参加をお待ちしています。

小川康同行 ツアー情報


町からも近い山中での薬草探し、ブータンの医療現場見学など、小川さんと一緒でなければ体験できない企画が盛りだくさん。多くの薬草実習をこなしてきた小川さんと歩き、植物観察を楽しみながらブータンを違う視点で味わいたい、そんな方におすすめです。