第139回●ハービス ~文明への憧れ~

ハービスプラザの地下道にある滝

大阪・ハービスプラザの地下道が大好きだ。通路に沿って滝が流れ、まるで年中クリスマスのように彩られている。というと少し大袈裟だが、いま振り返るとそんなイメージがよみがえってしまうから不思議なものだ。メンツィカン在学中、ダラムサラから一時帰国した際、風の大阪支店へ向かうこの瞬間が、快適な日本の素晴らしさを味わえるなによりもの一時だった。つい数日前まで暮らしていたカビ臭いメンツィカン男性寮(第26話)や、数時間前まで滞在していたデリーの混沌とのギャップがあまりにも大きすぎて、ディズニーランドの中に迷い込んでしまったかのような感覚さえ覚えてしまう。「おい、みんな。日本の技術は地下にまで滝を作ってしまうんだぞ。凄いだろ!」と同級生たちに大声で自慢したかった。さらに、東京へ出ると、今度は、高層ビルや東京タワーの人工美に心を奪われた。ここは小さいころに読んだドラえもんに出てくる未来都市なのか? こんなにも美しい場所があったとは、いまのいままで気がつかなかった。まるでチベット人のように日本の文明社会に驚いてしまう。チベット社会で暮らしているうちに、すっかり感覚が彼らと似通ってきてしまったようだ。

だから、もしも、来日したチベット人をもてなす機会に恵まれたら、寺院や山へ案内するのは少しだけにして、電化ショップや、大きいショッピングモールや、科学館など、日本ならではの場所をお勧めしたい。ちなみに2002年に来日されたダワ博士(元ダライラマ法王侍医)(第48話)のお気に入りは動物園と水族館だった。メンツィカン同級生の1人は「もし、日本に行く機会があったら真っ先に自動車のショールームを見たい」と憧れを抱いていた。そういえば、以前、来日中のチベット高僧と出会ったとき「もう、お寺巡りはたくさんだ。他の場所に連れて行ってほしい」と随行者には内緒で、僕に吐露してくれたことがあった。日本人がチベット人に期待することと、彼らが望むことのあいだには隔たりがあるようだ。

同じようにチベット人が自然のなかであたりまえに生き、そこで営まれる医学と、都市で生きる日本人が憧れる自然な「チベット医学」とのあいだには大きな隔たりがあると感じている。少なくとも僕個人に関して言えば、現代医学や化学物質に否定的な日本の方々とは話が噛みあわないことが多々あり、申し訳なく思うときもある。チベット医学は決して自然懐古主義や現代医学批判の先鋒ではありえない。

ハービスプラザのパイプオルガン

そもそもチベット医学とは「自然・人工」という概念や「~医学」という分類学すらも超越した存在なのではないか。汗をかきながら歩き、骨を折りながら薬草を摘み、楽しみながら薬を作り、心から祈る。その姿は何百年も前から変わらない。一方で、チベット医たちは文明の先端技術に憧れることに躊躇いはない。いや、大地に根ざせば根ざすほど、自信を持って背を伸ばすことができる。そうか、いま、自分はどうして文明に対する拒否反応が消えたのかに気がついた。チベット医学を通して大地に根ざしたことで、文明に対して積極的に関われるようになったのだ(第105話)。その変化の象徴が「ハービスプラザの地下道」なのである。

はじめての講演会のポスター

脇目も振らず一直線に古代の英知「チベット医学」を学んでいたあのころ、帰国後に最先端の地下道に出会うと、周囲の光景に心を奪われて普段の早足が自然と遅くなった。先端技術が時の流れを緩やかにしてくれたのだ。そうしてゆっくりと歩いて心を癒したあと、エスカレーターを乗り継ぐと、こんどは豪華なパイプオルガンが出迎えてくれる。そうそう、2004年12月、生まれてはじめての講演会「ヒマラヤの宝探し」をハービスプラザで開催したとき(第96話)、すっごく緊張していた僕をリラックスさせてくれたのはパイプオルガンの生演奏だった。ここから僕の講演会活動は幕を開けたんだっけ。そうして思い出に浸っているうちに、ようやく風の大阪支店に到着する。
「あ、小川さん。まいどー!」。
こうしてハービスプラザ癒しの旅は、大阪支店スタッフたちの最高の笑顔で締めくくられることになる。さあ、みなさんもハービス地下道を通って風の大阪支店に行きましょう。できれば6月22日の夕方6時からはじまる「チベット医学絵解き講座」に合わせて(笑)。
お待ちしています。

大阪支店のスタッフたち


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