第191回 サンチュ  ~トイレの話~

tibet_ogawa191_1アッカラ村

新年そうそう申し訳ないが、今回はトイレにまつわる話をしたい。

●富山のポットン便所
4歳のとき泣き叫びながらはじめて一人でトイレにまたがった。便器の前にペンシル・チョコレートの御褒美が3本置かれていたのを不思議なほど覚えている。暗く、まっすぐに落ちていく便艙は気味が悪い。当時、誰もが通る道だったとは思うが、僕も御多分にもれず、一度だけ落ちて大騒ぎになったのを、これまた明確に覚えている。そして、祖父が天秤を担いで肥だめの人糞を畑に撒いていた光景と匂いを忘れることができない。トイレにまつわる記憶はどうして、こんなに鮮明に残っているのだろうか。

●スリランカの樹木トイレ
 23歳のときスリランカの農村、アッカラ村へのスタディツアーに参加した。10日間のプログラムを終えた後、日本人参加者が一人ずつツアーの感想を語ることになり、20歳くらいの女子大生の順番になった。すると泣きはじめるではないか。「ホームステイ先でトイレに行きたいって身振りで示したら、庭の樹木の下に連れていかれたんです。それで、ここでは無理ですって身振りで示したら、そしたら……そしたら……別の木の下に連れて行かれたんです。木の種類の問題ではないんです!(涙)」。彼女には申し訳ないが、このコメントが、スリランカの旅でなによりも印象に残ってしまった。きっとアッカラ村では「日本人はトイレの樹木にこだわる民族だ」と評価が高まったことだろう。

●中国のニーハオトイレ
 2001年の春、はじめて中国を訪れた。中国といってもウイグルの中心都市ウルムチにあるウイグル医科大学である。滞在中、大学内のトイレでズボンを下ろししゃがんでから違和感に気がついた。おかしいな……ドアがない。どこにもない。農村部ならともかく、近代的なトイレにも関わらず、ドアだけが不自然なまでにない。僕は人が来る気配がないのを確かめてから、腹圧を高めると人生のなかでもっとも素早くトイレを済ませた。これが噂の「ニーハオ(こんにちは)・トイレ」との最初の出会いだった。残念ながら、最近の中国のトイレにはドアがついている。

tibet_ogawa191_2ウイグル医科大学

●信州の青空トイレ
 26歳のころ、農場で働いていたときは畑のそばで用を足していた。周囲に豊富に生えるヨモギは柔らかくて抗菌作用や皮膚の収斂作用もあるので、トイレットペーパーよりも遥かに優れものだ。何枚も重ねてお尻を拭きとった後は、ちょっと穴を掘って埋めておけばいい。きっと、いい肥やしになっただろう。これはけっこう気持ちよくて癖になった。

tibet_ogawa191_3柔らかそうなヨモギ。これはお茶用です。

●ラダックの砂トイレ
 風の日本語ガイド・スタンジンの実家があるニンモ村でラダック式のトイレを体験した(第181話)。ラダック式とは、二階のトイレには砂が積まれていて、その中心に穴があいている。用を足した後はスコップで少しだけ土を落としておく。足場が砂なので不安定という欠点はあるが、とてもエコで効率的だ。極度に乾燥しているラダックの気候ならではのトイレだといえる。土と便が下に溜まると、畑に撒かれて肥料になる。ホームステイ先では、外国人旅行者に配慮してか、ご丁寧に西洋式とラダック式のトイレが併設されていた。いつも「今日はどちらにしようかな」と、二つ並んだドアの前で悩んでしまったものだった。

●ラサの30mトイレ
 ラサのポタラ宮殿のトイレは恐ろしい。最上階近くにあるトイレで用を足すと、30メートル近く「モノ」が落下し、どこかに落ちて溜まる……のだろうか。当然、風が強く吹けば、どこかに散ってしまうだろう。2004年、はじめてラサを旅したときには、まだ、このトイレは現役で活躍していたが現在は見学のみになっている。2004年のとき、用を足しておけば自慢できたのにと激しく後悔している。一歩前へ踏み出す勇気が僕にあれば……。ちなみにチベット語でトイレは「サン(秘めた)チュ(行い)」という。

tibet_ogawa191_5これが天空のトイレへの入口

●インドの線路トイレ
 夜行列車でデリーが近づいてくると、朝霧のなか、人々が空き缶を持って線路に近づいてくることに気がついた。彼らは線路の上にしゃがむと用をたし、空き缶に入った水でお尻を洗った。車窓からはいくつものお尻が並んでいるのが見える。線路の高さが用を足すのにちょうどいいらしい。これは、インドを象徴する光景として僕の脳裏に焼き付いている。ちなみに、インドでの10年間、僕はずっと左手と水でお尻を洗っていた。インドで左手は不浄な手として握手に使われないのは理解できる。そして、水不足になったとき、飲み水よりもなによりもお尻を洗う水の確保が最優先事項になるのは、人類学的な大発見だった。

●日本の最新式トイレ
 2006年、インドから富山の実家に帰ると、トイレの蓋が自動開閉式でウォッシュレット、自動水洗に変わっていて驚いた。最新式のトイレを自慢げに語る父をよそに、かつてのポットン便所を懐かしんでいた僕なのであった。いくらなんでも自動開閉、自動水洗はやりすぎというものでしょう。トイレはシンプルで、ちょっと匂って、人肌がちょうどいい。毎朝、生きることの原点を思い出させてくれるから。

 2016年、今年もよろしくおねがいします。

参考
チベットの地方ではチャブ(水)サン(秘めた)と呼ぶところもある。


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