添乗員報告記●チベット・マンダラ紀行6日間 冬のチベットを楽しもう 巡礼者いっぱいのラサ(2006年12月)

2006年12月29日~2007年1月3日  文●岡田賢司(大阪支店)


巡礼者で溢れるバルコル

冬のチベットは寒いのでシーズンではないと言われています。しかし、裏を返せば夏に比べツーリストが格段に少なく、しかも、農閑期のためチベット人の巡礼者がたくさん押し寄せる、チベットの雰囲気を感じるには本当によい季節なのです。「チベットのベストシーズンは、実は冬といっても過言ではない」と気付かされました。今回は、年末年始のお休みを利用して、6日間という短い期間でチベットの都ラサを中心に旅をする「チベット・マンダラ紀行6日間」のツアーに、私も添乗員としてご一緒させてもらいました。出発前から冬のチベットツアーに同行した歴代のスタッフから「冬のチベットはいいよー」といわれていたので楽しみだったのですが、本当にローカルなチベットに出会う、アットホームで楽しい旅、そしてすばらしい年越しになりました。

[1日目]12月29日 前途多難!いきなりのアクシデント

今回のツアーは正月をチベットで迎えようと、東京から7名、大阪から6名の計13名が参加。直行便の飛んでいない成都へは、大阪出発のお客様は上海で乗り継いで、東京出発のお客様は北京経由で向かうのですが、なんと、いきなり東京組は天候不順のため成田空港を出発できず、到着が6時間おくれるというアクシデントに見舞われました。大阪組も若干は遅れたのですが、無事、予定通り第一泊目の成都に到着。 東京組も遅れつつも元気に成都到着、添乗員は一人胸をなでおろすのでした。

[2日目]12月30日 巡礼者の闊歩する旧市街


成都~ラサ 機窓からの風景

朝、遅れてきた東京組と大阪組の皆さんが、空港に向かうバスの中で初顔合わせ。全員で成都空港からラサへ向かいます。成都/ラサの間には、文字通り2つの文化圏を横断する「横断山脈」というヒマラヤ山脈の東端に当たる巨大な山脈が横たわっています。冬でしかも乾季であることもあって、白い雪の峰々、チベットらしい茶褐色の岩峰、氷河や氷河湖など眼下に展開される圧倒的な景色に、皆さんの「これからチベットにいくのだ」という気持ちが、否が応にもたかまっているのが分かりました。


巡礼の少女たち
(旧市街)

ラサの街はチベットで最も神聖なお寺と言われるジョカン(大昭寺)を中心として発展してきました。今でもチベットの人が多く住み、巡礼者が多く集まるのはジョカンを中心とした旧市街です。そして、街の西側には後から入植してきた漢民族が開発し、新しく発展した都会的な新市街があります。
我々がチェックインしたシャンバラホテルは旧市街のど真ん中という最高のロケーション。ホテルの門を一歩出ると、そこには地元の人々とチベット各地からやってきた巡礼者が闊歩し、さらにそれを当て込んだ土産物や仏具などを売る露店や、巡礼者から施しを受けようと言う乞食までもが所狭しとひしめき合います。自由時間には、露店を冷やかしたり、巡礼者を観察しながらの散歩を楽しむことができ、ご参加の皆さんにも、楽しんでいただけたようでした。


ジョカンの上から

バルコルとは旧市街の中心に建つ、チベットで一番神聖な寺のジョカンの周りをぐるっと囲む巡礼路です。日本で言えばお寺の前にある仲見世通 りといったところでしょうか。チベットの巡礼者たちはここを時計周りにぐるぐる回っています。そして、私がチベットで好きな場所のひとつがこのバルコル。今回もラサ滞在中、毎日訪れました。
本当にたくさんの巡礼者が回っていて、日本の通勤電車よりも混んでいるところもありました。
歩いている巡礼者も、多種多様。ダシェーと言う赤い髪飾りをして年季の入ったチュバ(民族衣装)を着た男性や、飾り石をたくさんつけたパンデンという伝統的な前掛けをつけた女性、ダウンジャケットにジーンズといういまどきの格好の人、家族連れや女性同士、お年寄り、若夫婦、赤ちゃんを抱いてる人、車椅子で回っている人までいて、「チベットの人々にとって、バルコルを巡礼することは本当に大切なんだなぁ」としみじみ感じられます。
バルコルは、ラサでもっとも賑わう繁華街の一つ。巡礼者や観光客を当て込んだものから、地元の人が買う日用品まで何でもそろう一大マーケットです。そして、当然ながらその値段はすべて交渉制。定価などありません。ツアーの皆さんと一緒に回っていたのですが、人それぞれ値切り方があり、人の買い物を見るのも意外に楽しいものです。ぜひ、ラサにきたらバルコルの散策を楽しんでください。

2日目の昼食後、昨年試運転を開始した青蔵鉄道(青海チベット鉄道)の終着駅、ラサ駅へ。ラサ駅を発着する列車は朝と夜に集中しているため、昼には、がらんとした駅舎を見ることができました。ラサ駅はとにかく広い!!そして大きい!!ラサ駅をバックにしてみんなで写 真をとったのですが、だいぶ離れてようやく全体を撮ることができました。
また、チケット売り場には行き先が「北京」や「成都」と書いていて「あー中国各地とつながっているのだなぁ」って改めて感じました。交通 の便がよくなることがチベットにどのような影響をもたらすかわかりませんが、チベットらしさがなくなってほしくないと強く思いました。


巨大なラサ駅の駅舎

ラサ駅の電光掲示板

[3日目]12月31日 大晦日はポタラで更ける


お茶屋さん

朝、現地ガイドの潘さんの案内でホテルの裏手にある茶館(ジャカン)へ。茶館はチベット人の憩いの場。ちょっとごちゃごちゃしてますが、一種のサロンのような場になってます。店にいるのは我々を除いてほぼ100%がチベット人。ローカル度満点です。我々の隣に座っているチベット人も、知り合い同士で世間話に花をさかせていました。潘さんいわく、友達どうしで来て1日中話をして帰っていく人もいるそうで、ゆっくりできる雰囲気の場所です。


巡礼者の親子
(ポタラ宮にて)

ポタラ宮に登る僧侶たち


[4日目]1月1日 ローカル気分満点!初詣は巡礼者いっぱいのサンゲ・ドゥングへ


巡礼路で出会ったご夫婦

新年最初のこの日はホテルにお願いして特別に屋上にあがらせてもらい、チベットの初日の出を拝みました。薄暗いうちから、そこかしこからサン(お香)の煙が立ち上るラサの町に、次第に日が差し上り、東の空が次第に白んできます。さらに西に目を移すと、朝日に照らされたポタラ宮が神々しくそびえています。すごく寒い中、震えながらも待っていた甲斐があり、本当にすばらしい初日の出を拝むことができました。
その後、冷えた体を暖めるため、地元のチベット人がよくいくトゥクパ(チベット風のうどん)屋さんへ。地元の常連さんたちに混ざっておいしいトゥクパをたべました。ガイドの潘さんに聞くと、ラサでは暖房をつける習慣があまりないため、部屋の中も寒く、朝起きると職場へ行く前に、まずトゥクパ屋さんへいってご飯を食べつつ、体を温める人が多いんだそうです。ここもローカル色が濃くて、チベットらしさを楽しめるポイントでした。


初日に輝くポタラ宮

トゥクパ屋さん


路地に吸い込まれるように続くサンゲ・ドゥングへの巡礼路

朝食のあと、ラサの町を大きく回る巡礼路『リンコル』の途中にあるサンゲ・ドゥングという場所へ。サンゲ・ドゥングはポタラ宮の斜め前にそびえるチャクポリ(薬王山)の裏にある聖地で、仏様や経文を彫り付けた石(マニ石)を積み上げた巨大なマニ塚や、巨大な岩には無数の仏様を掘った磨崖仏があり、途中数え切れないほどの5色の祈祷旗(タルチョ)がはためいていました。
観光客にはほとんど知られていない場所で、この日は観光客は皆無で、ここにいるのは巡礼者と私たちだけでした。
当然、観光客向けのアクセサリー屋さんなどはなく、巡礼路の途中にある店もマニ車を直す店だったり、タルチョを売っていたりと巡礼者向けで、昔ながらのチベットの風情がただよう場所でした。
また、磨崖仏の前には五体投地専用の台があり、ここで我々も巡礼者に混じって五体投地を体験しました。


巨大なマニ塚

磨崖仏と五体投地する巡礼者



バター茶を作る筒
(ドォンモ)

お昼は、ラサ郊外の民家にお邪魔して、チベットの家庭料理をいただきました。
ここでは、実際にドォンモという巨大な筒でバター茶作りを体験したり、チベットの主食である麦を挽いたツァンパという粉を、バター茶と混ぜて、団子にして食べたり、さらにはチベットのどぶろく・チャンの試飲、ヤクの干し肉を齧ってみたりと、滅多にできないチベットの人々の暮らしを垣間見て楽しんでいました。
そして、車でラサまでの帰路に五体投地でラサを目指す巡礼者に出会いました。聞くと、1日に進む距離はわずか5キロ。黙々と額と地面 に刷りつけ、体を投げ出し、尺取虫のように少しずつ進むその姿に、皆さん圧倒されていました。


民家でチベット風の食事を
「いただきまーす」

民家で出された干し肉(ヤク)

5日目~6日目]1月2日、3日 後ろ髪を引かれつつ下界へ

あっと言う間にラサを離れる日。皆さん、もう少し居たいという気持ちでいっぱいのようでした。
出発前に、延泊する3名と別れを惜しみ、バスに乗り込みます。ポタラ宮の前を通 り過ぎ、後ろ髪をひかれながら、はるばるやってきたラサを離れました。飛行機で成都に移動し、この日は成都で宿泊。
最終日(6日目)に東京組、大阪組とも、皆さん無事に帰国となりました。

感想

実は前に1度、個人的にチベットを訪れたことがあり、自身では2回目のチベットだったのですが、巡礼者の方やチベット人を、前回よりもずっと身近に感じることができた旅でした。
このツアーのスケジュールが、民家訪問や巡礼路を歩くといった内容を取り入れるなど、地元の方や巡礼者と距離が近いということもありますし、また時期がよかったということも関係していると思います。
冬のチベットは確かに寒い(夜は-10度になることも)のですが、それ以上にチベットの巡礼者が多く、観光客も少なく、よりローカルなチベットに出会える時期です。お正月休み以外は、なかなか時間がとりにくい時期ではありますが、ぜひ巡礼者であふれかえるチベットを訪れてください。巡礼者の真剣な顔つきや楽しそうに巡礼している笑顔に出会えるチベットらしい旅になることでしょう。本当にオススメです。