先日、インドのラダック地方への添乗に行ってきました。
チベット暦の「サガダワ」(お釈迦様の誕生と入滅を祈念する月)の期間と重なり、寺院では多くの巡礼者や僧侶の読経、美しい砂曼荼羅を間近で見ることができ、普段は入ることのできないお堂などにも入ることができて、参加されたお客様も大変楽しまれていました。仏教や壁画の解説は、弊社のオンライン講座でもお馴染みの川﨑一洋先生が担当され、非常に充実した1週間となりました。

砂曼荼羅
出発前、「今、インドに行っても大丈夫なの?」という周囲の心配の声が多く聞かれました。4月下旬にはインドのカシミール州で武装勢力による殺害事件が発生し、その後、インドとパキスタン間でのミサイル攻撃や無人機による応酬、さらにはインド軍機の撃墜といった緊迫した状況が続き、インド国内線の一部運休も発生していました。しかし、5月10日にはアメリカのトランプ大統領の仲介により、両国間で即時停戦が合意され、事態はわずか3週間で急転直下、沈静化に向かいました。
この情勢を踏まえ、6月上旬にパキスタン国境やカシミール州に近いラダック地方へ行くことに対し、私自身は過度な心配はしていませんでした。その最大の理由は、「インドもパキスタンも本心では戦争を望んでいない」と判断していたからです。核武装国である両国が戦争をエスカレートさせることは、お互いに大きなリスクを伴います。国民への弱腰な姿勢を見せたくないという思惑から強気の姿勢を崩せずにいましたが、実際には停戦の機会を探っていたのでしょう。トランプ大統領の仲介は、まさに「渡りに船」だったと言えます。

小坊主ならぬ小尼さん
インドは世界最大の人口を抱え、若年層が経済成長の大きな原動力となっています。一方、パキスタンは国内のテロに苦しみ、経済は危機的状況に瀕しています。両国ともに、戦争をしている場合ではないのです。お互いが「こちらが勝った」と国内に喧伝できるタイミングで停戦できれば面子が保たれる、という思惑が一致したのでしょう。
日本の外務省も不測の事態への注意喚起は行ったものの、ラダックを含むインド・パキスタンへの危険レベル自体を引き上げることはありませんでした。さらに、出発前にラダックの現地スタッフであるスタンジンに話を聞いたところ、国内線の運休には困ったものの、運航再開後はラダックでは紛争の影響はほとんどなく、行動制限なども特にないとのことでした。ただし、紛争の影響から観光客は減少しているとも話していました。
風の旅行社が扱う地域は、残念ながら常に「平和で安全」とは限りません。突発的な事件や自然災害、国際情勢によってツアーの実施可否で迷うこともあります。その際、私たちはイメージではなく、現実を分析し、以下の基準に基づいて渡航の判断を行っています。
ニュースなどでセンセーショナルな映像をご覧になってイメージとして「危ない」と思うことはあると思いますが、実際にどの程度危ないかはイメージではなく現実を分析して判断しなければならないと思っています。また我々の「行って頂きたい」という気持ちが強すぎて自分で安全バイアスをかけてしまわないように、常に自省する必要もあります。
これからも冷静にお客様の安全を優先しつつ情勢を分析してツアー実施の判断を下していきたいと思います。