
四物神湯と加味四物鶏湯

当帰入りカップラーメン
台湾旅行のお土産に薬膳セットをもらった。その一つ、四物神湯は薬膳スープの定番で、当帰、山薬、蓮子、ハト麦、茯苓などが配合されている。こんな贅沢な生薬が150元(750円)という安さで、しかも普通の食料品店で売っているというから驚きである。当帰(第73話)のおかげで身体が温まるのは確実で、茯苓(第324話)があれば浮腫みが解消される期待値は高い。もう一つ、加味四物鶏湯には当帰、地黄、川芎、黄耆、大棗、枸杞、高麗人参などが配合されていて、こちらも活力が出そうだ。さらに、極めつけは当帰入りのインスタントラーメン。これがおいしい! 聖なる薬草と俗なるジャンクフードの組み合わせは、「清濁併せ呑む」ごとき薬草文化の奥深さが伝わってくる。なお、これら生薬のうち当帰、茯苓、川芎、黄耆は日本では医薬品に属するために、同じように販売したら違法となる。ちなみにチベットには薬膳という概念や単語はなく、あえてチベット語で表現するとメンギ(薬の)・セリク(食事)となる。

五味子
おとなりの韓国では五味子や葛根(第196話)が日常に根差していて子どもから老人まで愛飲しているが、日本ではやはりどちらも医薬品に属するために違法となる。韓国側は五味子茶を日本に輸出したがっているが規制緩和の兆しはない。韓国人に「日本では五味子が医薬品で、高麗人参(第234話)が食品に分類されている」ことを教えると、たいそう驚いて「その分類はおかしいです。韓国では五味子は安全で、高麗人参のほうが危険性が高いというのは常識です」と語ってくれた。同じようなケースとして中国では、日本の漢方便秘薬に配合される大黄がスーパーで売られている。このように東アジアの漢方文化圏において、日本のみが特殊な存在であることがわかる。彼らからすると、日本の薬膳料理は、主役を欠いた「薬膳らしきもの」に感じられることだろう。

コンフリー
日本の医薬品区分は、昭和46年に数名の薬学者によって、とり急いで作られたといわれている(第235話)(注1)。なぜ、とり急いだかというと、このころ書籍を切っ掛けとして紅茶キノコが「癌に効く」として大ブームになったためらしい(第326話)(注2)。それ以前にもコンフリーや霊芝が万病に効くとして大ブームになった経緯があり、そうした日本人の健康食品に対する異常ともいえる熱狂性が、まるで校則の厳しい中学校のような法律を生み出してしまったようだ。
だからといって、日本がそんなにダメな国かと言ったらそうではない。事実、平均寿命はどの国よりも高い。日本には発酵文化や山菜料理に象徴される長寿食が各地に受け継がれていて、脂肪分が少ない日本食はヘルシーとして欧米では人気が高い。衛生環境に優れ、健康診断が農村部まで普及している。つまりあくまで薬草部門において日本の文化度は低いというだけで、健康レベルを総合的に見れば、けっして劣っているわけではない。
したがって、日本人の薬草に対する熱狂性と健康事情を考えれば、厳しい法律はこのままでいいのではないかと思うときがある。日本人にとって、当帰、地黄などの医薬品レベルの薬草は、いままで通り、たまに摂取するくらいが体質的にちょうど合っているのかもという仮説も浮かび上がる。かくいう僕も、こうした薬草を普段から積極的に摂取していないが、身の回りの自然の恵みを享受することで(第249話)いまのところは健康に暮らせている。
ただ、日本では主役の薬草たちが不在な状況のままで野草・ハーブの民間資格制度が人気を博し、本来は効果効能があいまいな野草たちが、医薬品のごとく「〇〇に効く」と持ち上げられているのを見ると違和感を覚えてしまう。いっぽう本場の台湾や韓国では一般の人たちが医薬品である薬草を使いこなしていて、だからこそ薬草のヒエラルキーがしっかりと保たれている。
まあ、目くじらを立てても仕方がない。どんなに法律は厳しくても自家用に用いるのは大丈夫。要はビジネスにしたり、他者への治療に用いなければいいだけのこと。その場合は国家資格も民間資格も難しい蘊蓄も必要ない。たとえば薬局や通販で生薬「当帰刻み」を購入して、お茶やスープや、それこそカップラーメンにちょっと一つまみだけ入れてみてほしい。五味子を山で採取して五味子酒を作ってみてほしい。すると、台湾や韓国の薬草文化にちょっとだけ近づいて、日本人の健康寿命はさらにちょっとだけ延びるのではないか、そんな期待をちょっとだけしています。

台湾の青草市場
注1
健康食品の流行史上最大級のヒットが「紅茶キノコ」である。きっかけは『紅茶キノコ健康法』(地産出版)、表向きの著者は元読売新聞編集局長夫人の70代女性だったが、実際に書いたのは元読売新聞社会部長の小川清というジャーナリストだったことが、のちに本人の告白で明らかになった。「ソ連バイカル湖畔の長寿村で難題となく愛用されてきた健康食品」というふれこみで、白いぶよぶよしたゲル状の種菌を薄甘くした紅茶に入れて1,2週間培養し、その上澄み液を飲む。どんな難病も治る奇跡の万能薬とうたわれ、1975年に全国で異常なブームが吹き荒れた。
『熱狂と欲望のヘルシーフード』(畑中三応子 ウェッジ 2023)
注2
ところで厚生省という役所は、なんとも不思議な役所です。日本の役所というものは、だいたいそんなものかも知れませんが、厚生省は、昭和四十六年六月一日、薬発第四七六号で、各都道府県知事あてに「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」の通達をだしました。それによると、「主として医薬品として使用される物」の中にエビスグサ(決明子)が記載されており、「通常の食生活において食品の範囲と認められる物」の中に、ハブソウ(望江南)が載っています。いったい何を基準にして、決明子は医薬品、望江南は食品であると決められるのか、おそらく決明子は輸入物が市場にいくらでも出回っているのに対し、ハブソウは特殊なルートしか流通しなく、一般ではあまり見られないので、安易に机上の判定をしたものと思われます。まったくばかの一語につき、国民の血税で、こんな支離滅裂な通達を恥じらいもなくだすとはもってのほかのことです。
『薬草栽培教室』(森下徳衛 富民協会 1984)より
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