添乗員報告記●青蔵鉄道で行く 青海省と遙かなるラサへの道9日間(2007年8月)

2007年8月11日~8月19日  文●岡田賢司(大阪支店)


青海湖畔の放牧風景

今回私はお盆休みをフル活用した話題の「青蔵鉄道」ツアーに添乗員として同行させていただきました。当然、今回のコースのメインは青蔵鉄道なのですが、それ以外にも東北チベット=アムドの大草原、蒼く輝く湖面 と菜の花の黄色のコントラストが美しい青海湖、白い湖面が広がるチャカ塩湖、かつてのキャラバン隊を苦しめた無人の荒野ツァイダム盆地など青海省の大自然も楽しむことができました。
鉄道情報やラサについては別の添乗報告に譲り、今回は西寧~ゴルムド間をメインに報告します。

緑溢れるダライ・ラマ14世の生家

初日は日本から北京経由で西寧に夜遅く到着したので、2日目が実質的なツアー初日。
午前中はアムド最大の僧院タール寺を見学し、午後、ダライ・ラマ14世の生家を訪れました。道中は田んぼと緑が広がり、風も気持ちよく、花も咲いています。かつて先代のダライ・ラマ13世がこの地を通 りかかったときのこと、あまりにも美しい風景に「転生するならこのあたりに転生したい」と言ったとか。実際、本当に綺麗な風景でした。
また、ダライ・ラマの自伝『チベット わが祖国』によると生家からの山々の景色が仏の涅槃像にみえるそうです。みてみると、そういわれれば・・・。


ダライラマ生家周辺

ダライラマ生家周辺の村人

青海省は中国? チベット?


かなり都会・西寧の街

青海省の省都西寧はチベットの東北部「アムド地方」として、チベットの一部とされてきた、という事前知識は当然ありました。しかし、西寧はチベットの都ラサからおよそ2,000kmも離れています。しかも「西寧」という中国風の地名から、出発前の私はなんとなく昔から中国の都市として栄えてきた中国風の土地を想像していました。また、神秘のイメージがある青海湖も、相当に観光地化されているという話を聞き、もうチベットの面影はないのだろうと思っていました。しかし、私のこの浅はかな認識は後にあっさりと崩されるのでした。
3日目、西寧の町を離れ西へ向かいます。草原地帯を徐々に高度を上げながら進んでいくと草原の峠に立つ日月亭が見えてきます。古来よりここはチベットと中国世界の分岐点とされ、唐の時代に文成公主という唐皇室の娘が和平の証としてチベットに輿入れした際に、故郷の唐に別れを告げた場所です。同時に彼女が持ち込んだ、チベット仏教の中心であるラサのジョカン寺の本尊・シャカムニ像がたどった道でもあると思うと感慨深いものがありました。
チベット世界と中国世界の境界線というだけあって、日月亭を越えるとそこから風景が一気に変わります。周囲はどこまでも草原が広がっており、ところどころで放牧している遊牧民の姿が見えます。具体的に何が変わるというものはないのですが、スケール間ががらりと変わります。まさにチベット的な風景。そして、青海湖側から気持ちいい風が絶えず吹いていて暑くもなく、すごしやすい場所でした。


観光客でにぎわう日月亭

日月亭から望むチベット方面

青と黄と緑と白 遊牧民の世界へ

日月亭からは草原の海が続いています。そこから車で20分ぐらい走ると青海湖が見えました。モンゴル語の「ココノール」、チベット語の「ツォ・ンゴンポ」はどちらも「青い湖」という意味です。その名の通 り深い青を湛える海のように巨大な湖と菜の花の黄色い絨毯、草原の緑のコントラストがすばらしく写 真で見るような綺麗な風景が広がっていました。
青海湖の湖畔の写真ポイントでは、車を降りて、菜の花と湖の前で、皆さんここぞとばかりに写 真を撮りました。皆さん青海湖のイメージどおりの風景に満足されているようでした。

青海湖の周辺の草原地帯は遊牧によほど適していると見えて、チベット人の遊牧民がテントを立て、ヤクや羊を放していました。我々の1時間弱の移動中、ずっと視界いっぱいにヤク、羊、遊牧民の姿が見えていました。私もチベットを何度か訪れていますが、遊牧民をこんなに多くみたのは初めてでした。ヤクは羊が群がっている草原の、その向こうに見える、青い青海湖は本当に綺麗です。
青海湖を越えると、一路チャカに向けて高度を上げ、像皮山の峠(西寧~ゴルムド間の最大高度3,800m)を越えます。ここにも遊牧民がテントを張っていて、皆さん車を降りて、人懐っこいチベットの人々と写真を撮ったりして、楽しそうに交流していました。

確かに青海湖の観光スポットや日月亭などポイント、ポイントは観光地化されており、中国人観光客でいっぱいなところもありました。しかし、さすがは現在のダライ・ラマや先代のパンチェン・ラマを生み、ゲルク派の生まれた土地です。観光地を一歩離れるとそこは草原の世界!! まさにチベットの草原の風景が広がっていたのでした。


イメージどおりの青海湖

像皮山峠



遊牧民の子ども

何が見えているのかな?

草原から『塩の世界』へ

翌日は、ステップ地帯を経て真っ白な『塩の世界』へ突入です。
皆さんはチャカ塩湖ってご存知でしょうか? 青海省自体が超マイナーなのでご存じない方も多いでしょう。西寧とゴルムドの間にあるチャカ塩湖は塩分の非常に高い内陸の塩湖。その塩はかつて清朝皇帝にも献上されたことがあったとかで、中国の中でも最高品質の塩が取れるのだそうです。
ステップ地帯の荒野に不自然な人工的な建物が点在する塩の採掘場を、我々ビジターは観光用のトロッコに乗って見学します。トロッコでは実際に採掘している湖の中の島まで行くことができます。(現在は故障中で、来年4月以降に再開予定。) 時折塩を満載したトロッコが移動していきます。島に渡ると足元は一面の真っ白い塩。まるで雪のようです。試しに湖水をなめてみると、あまりの塩辛さにびっくり。やはり塩でした。
私達が訪れたときは曇りだったので、チャカ塩湖の湖面は山と雲間から差込む光とが映りこんでいて幻想的な雰囲気をかもしていました。天気が良いと、真っ青な空を反映した湖が見えることでしょう。


チャカのトロッコ列車

塩を載せたトロッコとすれ違う



幻想的なチャカ塩湖

雪のような足下の塩

ツァイダム盆地を走破


トイレ・タイム

4日目には何もない荒野・ツァイダム盆地を進みます。
何処までも真っ直ぐな道、そして、左右はところどころに、低木が生えている以外は砂地の荒野が広がっていました。
荒涼とした荒野はいいのですが、困るのはトイレです。道以外なにもないので、隠れるところがまったくありません。毎回、毎回ドライバーは苦労して隠れられそうなところを探していました。それぐらい何もない風景が続きます。
何もないこの道は、実はかつて中国とインド、そしてさらに西方世界を結ぶシルクロードの一部分でした。今回私達はチャカ~ゴルムド間(約450km)に6時間半ぐらいかかったのですが、オアシスや緑もほとんどなく、馬やラクダで移動していた当時の人々の苦労が偲ばれました。

また、青海省は草原地帯なので遊牧民が多いのですが、イスラム教徒の回族の人々も大勢暮しています。我々が昼食をとったツァイダム盆地のレストランはそんな回族のご主人が経営するものでした。
食堂の隣が調理場だったので、特別に作っているところを見させていただきました。料理人は恥ずかしそうにこねた麺を両手で持ち、どんどんと叩いて伸ばしていきます。その手際の良さに思わず「すごいなぁ~」という声もあがります。
やがて回族特製の自家製麺のできあがり。食後はレストランの人と写真をとったりした楽しいひとときでした。


ツァイダム盆地

ラクダ



麺を打つ料理人

レストランの奥さまとお子さま

広く明るく楽しい! 快適、硬座の旅


ゴルムド駅

今回のツアーではゴルムドから青蔵鉄道の『硬座』に乗車しました。
青蔵鉄道の座席には2等椅子席の硬座、2等寝台の硬臥、1等寝台の軟臥の三種類があります。 ツアーでは通常寝台を利用することが多く、これまでの添乗報告でもいずれもこの車両を利用しています。 硬座は料金が一番安い椅子席なので敬遠されがちですが、昼間の乗車だけならば実は圧倒的にお薦めです。
なぜなら、まず両側に窓があり、仕切りもなく自由に動き回れるので列車の左右の景色を楽しむことが出来る。そして寝台に比べて開放的で明るく、そのため写真も撮りやすい。さらに内外のツアー客以外にも中国人やウイグル人商人、チベット人巡礼者などいろんな人種、立場の人々が乗っていて、身振り手振りで交流もしやすく海外の鉄道旅行の雰囲気がたっぷり味わえるからです。座席だってリクライニングこそしませんが、新幹線並みに広々していて快適です。

ゴルムド駅に列車が入ってくると、とうとうメインの青蔵鉄道に乗れるので、皆さんのテンションも自然に上がってきます。誰とはなしに「いよいよですねー」「楽しみです」と楽しそうに話されていました。
硬座は窓が大きく広いので、動物や山などの発見がしやすいのが特徴です。面白かったのは、車両の中で数名が「あっ」とカメラをもって立ち上がると、国籍にかかわらず、釣られたように他の人々も一斉に、「何が見えた?」と立ち上がってカメラを構えます。 「どこの国の人も同じだなぁ」と、なんとなく車両内の連帯感みたいなのが感じられて楽しくなります。私たちも負けずに、動物や山、駅が見えるたびに「今・・が見えた」「今・・この駅を通過した」といいながら皆でシャッターを押していました。  

実は、西寧からラサへ向かう列車は直前に増便が決まったため、お盆だというのに座席はがらがらで、本を読んだり、持ってこられたコーヒーを飲んだりと、ゆったりとした旅ができました。欧米人がカードで遊んでいたり、寝ている中国人の乗客がいたり、チベットの人々も沢山のっていました。お客様の一人が、車掌さんや行商人の家族の方などとも片言の中国語と英語が入り混じった言葉で会話を楽しまれていました。他の乗客と距離が近い。そんな感じがした硬座の旅でした。


ゴルムドを出発してすぐの景色

がらがらの車内



こんな景色が見えると・・・→

みんな一斉に立ちあがる

らくらく高度順応

最後に今回のコースの特筆すべき点をひとつ!
それは高度順応が非常にしやすい!!
初日に2,250mの西寧に2泊、その後3,000m前後のチャカとゴルムドに1泊ずつしてから鉄道に乗り込み3700mのラサへ向かいます。そのため、飛行機でいきなりラサに入るよりも、また西寧から寝台列車で入るよりも高度順応しやすい日程なのです。旅行を楽しみながら、知らない間に高度順応している、という感じでした。
私自身も何度かチベットへ行っていますが、いつもはものすごくしんどく感じるポタラ宮の階段も、今回はあまり息切れもせず登ることができてびっくりしました。


ポタラ宮、階段に注目

こんな角度も
息切れせずに登れます


勝手に中国的なイメージを持っていた青海省は、予想以上のチベットらしさと自然の美しさを持ち、快適な列車の旅、そして快適なチベット旅行に導いてくれたのでした。