[ブータン]ダガラ地方・ジョモピーク登頂トレッキングの魅力

遠くにブータンヒマラヤを眺める遠くにブータンヒマラヤを眺める


  
「タクツァン僧院」など、ブータンの観光スポットには簡単なトレッキングが必要な場所が多く、軽登山靴やリュックサックを準備される方が多いかと思います。それならいっその事、本格的なトレッキングも併せて楽しんでみてはいかがでしょうか? 日本では余り紹介されていない、ダガラ地方の4,000m峰「ジョモピーク」に登頂するツアーの魅力をご紹介いたします。

トレッキング日程


【DAY1】パロ、ティンプー、プナカなどゲネザンパグル

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パロやティンプーを結ぶ幹線道路から外れると、まるでラリーのコースのような細い山のダートを走ります。現地のドライバーは当然のように涼しい顔をしていますが、その高度感と恐怖感はトレッキング開始前から車内のムードを盛り上げてくれる事間違いありません。山間の集落・ゲネカ村で現地スタッフ(※1)と合流し、吊り橋を渡ったゲネザンパ(ブータン語でザンパは“橋”という意)から登山開始となります。

大きなカシの木にサルオガセが揺れる登山道を歩いていると、木々の間から徐々に展望が開けてきます。アスファルトの道路や電線などはなく、どこまでも緑の山並みや段々畑が続く景色を見ていると、これぞ“森の国”と呼ばれるブータン本来の姿なのだろうと感じる所です。

この日のテント場である「グル」は、周りを樹林に囲まれ、近くに小さな水場がある草原状の台地です。時間があれば、スタッフを誘ってキノコや山菜を探すのも楽しいでしょう。(※2)なお、トイレやダイニングテント、食器などは現地で準備していますが、寝袋などの寝具は各自でご用意ください。[歩行 約4~5時間]


【DAY2】グルパカラブツァラ峠ラバタンバ

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しばらくはシャクナゲやマツ、コケモモなどの混合樹林を歩きます。日本では2,000m前後で見られる亜高山帯の風景ですが、温暖なブータンでは3,500mを過ぎた場所でも高い木々が生えているのです。なんとなく違和感を持ちますが、高所に来たという認識で高度障害の予防に努めなければなりません。

ジョモピークトレッキングは、古くから放牧や交易のために使われてきたコースを歩きます。夏の間ヤクを放牧するための小屋や、峠にはためく祈りの旗・タルチョなどから、ブータンの“半遊牧民”と呼ばれる生活や信仰の一端を知ることができるでしょう。

「キビザゲビザ」と呼ばれる平地を過ぎ、いくつかの小川を渡ると、いよいよ丈の低い植物しか生えない高山エリアに突入。一気に視界が開けます。振り返ると、チョモラリやジチュダケ、カンチェンジュンガなど氷河を戴いたヒマラヤの峰々が望めます。周りにほとんど他のトレッカーがいない事にも驚かされるのではないでしょうか。

パカラブツァラと呼ばれる峠を越え、氷河が削ったのであろう雄大なU字谷が眼下に見えてくれば、本日のキャンプ地「ラバタンバ」まではもう少し。このキャンプは朝晩かなり冷え込みますが、スタッフが作ってくれる温かい食事が楽しみです。(※3)[歩行 約7~8時間]


【DAY3】ラバタンバジョモピーク(4,710m)ラバタンバ

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今回のトレッキングの目的地・ジョモピークを目指します。現地で「アム・ジョモ」と呼ばれるこの岩山は、ブータンヒマラヤとして最も有名であろう「チョモラリ」や、世界最高峰・エベレストの別名「チョモランマ」と同じく「チョモ(ジョモ)」という言葉で表されます。これはチベット語で“女神”や“母”を指すそうですから、まさに幸せの国・ブータンの女神が棲む山を目指すということになります。

4,000m以上の高地で8時間も歩くとなると、かなり大変なルートのように思えてきますが、ピーク直下まではほとんど水平に近いコースですので、「サウザンドレイク(千の湖)トレッキング」とも紹介される高山湖の展望を楽しみながら歩くことができるはずです。(※4)

ジョモピークの取り付きから山頂までは登山道はなく、一部では剥がれやすい岩を慎重に押し付けるようにして攀じ登る所も出てきます。しかし、極端に難しい所や危険な箇所はありませんので、日本で山歩きに親しまれている方なら問題ないレベルです。ピークまでの所要時間は通常40分程度でしょうか。山頂にはタルチョが翻り、聞こえるものは風の音だけ。視線を上げればヒマラヤの白い頂が、視線を下ろせば点在する高山湖がキラキラと輝いています。現地スタッフ達は「サン」と呼ばれる良い匂いの煙が出る植物を焚き、山頂の女神にお祈りをするかもしれません。[歩行 約8時間]

夏にはお花畑であろう登山道
美しい高山湖
タルチョが揺れる山頂


【DAY4】ラバタンバパカラブツァラ峠グル

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遊牧で使うルートには沢山の巻き道があるようで、往路に下った所を登り返さず、見通しの良いなだらかな山腹を歩くことでパカラブツァラ峠に到着することもできます。所要時間は若干長いのかもしれませんが、急登のないこちらの方が帰りは楽だと思われます。

4日間も一緒に歩き、仲良くなったスタッフ達とも明日でお別れ。最後の夜はブータンの歌や踊りを教えてもらうのも楽しいかもしれません。4,000m以上に連泊して高度順応が進んでいれば、多少のビールくらいは飲んでも大丈夫でしょう。もちろん山中に売店などはありませんので、街で買ったものをポニーに運んでもらっておけば、宴会のコミュニケーションに役立つはずです。[歩行 約5~6時間]


【DAY5】グルゲネザンパパロ、ティンプー、プナカなど

午前、ゲネカ村に下山し、車で次の目的地を目指します。


ツアーポイント


(※1)同行するスタッフ
ブータン・カゼ・ツアーズ&トレックス(Bhutan Kaze Tours & Treks、通称BKT)の日本語ガイドはもちろん、登山口からサブガイドやコックさん、荷物を運ぶポニーや馬子が同行します。トレッキング中に不要な荷物や着替えはポニーに預けてしまえば楽ちんです。


(※2)樹林帯では…
ゲネカ村周辺は日本にも輸出されているキノコの産地として有名で、運が良ければ「グル」のキャンプ場やトレッキング中の樹林帯でも、マツタケやホウキタケなど様々なキノコを見つけることができるでしょう(マツタケは8月~9月上旬がベストシーズン。決して怪しいキノコは食べないでください!)。また、ワラビやコゴミなどの山菜も食卓を彩ってくれるかもしれません。


(※3)食事の魅力
ブータンは辛い料理で有名ですが、同行コックさんは日本人向けに食べやすい料理を用意してくれますので、食欲の減退する高所でも安心です。基本的に主食はご飯で、野菜やキノコがふんだんに使われています。昼食は、キャンプ地や登山口からポニーで運ばれてくるケータリング形式となりますが、ほのかに温かさの残る手作り料理を山中で食べられるとは、なんとも贅沢な話です。


(※4)湖と植物について
ジョモピーク往復コースでは、ユンツォ湖やギャゲツォ湖など3つの畔を歩きます。この湖にはマス(恐らく、放流されたブラウントラウト)が生息していますが、基本的にツーリストが魚釣りをすることはできません。なお、この周辺は高山植物でも有名で、7月から8月初旬くらいまでは、「セイタカダイオウ」や「ボンボリトウヒレン」など高所に適応した珍しい“温室植物”や、幻と形容されブータンの国花にもなっている「ブルーポピー」も見られます。


まとめ

「○○峰の大展望!」と謳えるコースではなく、登頂できる山も一見地味なピークですが、野趣あふれる野営や、素朴なスタッフ達との出会い、現地の美味しい食事、ほとんど人にすれ違わない開放感など、他では味わうことが難しくなりつつある“海外トレッキング本来の魅力”に溢れているコースです。アクセスの悪さや公定料金の政策等で、旅行者自体の数が制限されているブータンだからこそ、手付かずの大自然を満喫できるのではないでしょうか。ネパールのエベレスト街道など、ロッジや電気が良く整備されたルートも快適ですが、もっとアウトドアを楽しみたい!という方にお勧めしたいコースです。