添乗報告記

添乗報告記●冬のラサで巡礼者になる!「青蔵鉄道で行く 巡礼者あふれる冬のラサ」(2010年末)

 
 カンパラ峠でルンタを撒く
カンパラ峠でルンタを撒く

2010年12月29日〜2011年1月4日
文●中村 昌文(東京本社)

「キキ、ソソ ラーギェロー!」
  
紺碧の湖を見下ろす峠から、真っ青な空に五色のルンタが舞う。

今回のツアータイトルは「青蔵鉄道で行く 巡礼者あふれる冬のラサ」。
「青蔵鉄道」には憧れるが、真冬に乗っても果たして面白いの? 雪山は見えるの? 草原は雪で真っ白じゃないの? それどころか寒すぎて観光どころじゃないんじゃないの? 「巡礼者あふれる」というのは誇張ではないの? どんな風に楽しんでいるの? などという読者の皆様の素朴な疑問に答えるとともに、「巡礼者気分でチベットを感じて欲しい!」とこのツアーを企画し、自ら添乗員として同行した中村が報告します。

まずは小手調べ タール寺へ

2010年12月30日。前日、師走の日本列島を脱出した我々11名の一行は、青海省の省都・西寧にいた。当日の最低気温はマイナス16度。とはいえ、乾燥しているので雪もなく、キーンと張り詰めた空気が心地よい。朝9時に出発したのだが、中国では北京から3,000kmも西にある西寧でも北京時間で動いているため、日本で言えば朝の7時くらいである。ホテルを出て、バスに乗る間だけでも寒さを実感する。

タール寺の巡礼者
タール寺の巡礼者

バスは西寧の市街地を抜け、郊外へと進路をとる。30分ほどでチベット仏教の最大宗派ゲルク派の開祖ツォンカパの生誕地に建てられた大僧院タール寺に到着。
西寧を含む青海省の大部分はチベット世界の東北部にあたり、伝統的なチベットの地名では「アムド」と呼ばれる。「チベット世界の端っこだから、お寺もたいしたことないんじゃないの?」と思われがちだが、このお寺、凄まじくデカイのだ! さすが開祖ゆかりのお寺。たくさんの遊牧民が暮す「草原のチベット」アムド地方のお寺らしく民族衣装に身を包んだ遊牧民の巡礼者もたくさん見かける。「巡礼者あふれる」というほどではないが、五体投地を繰り返し、全身全霊をもって祈りを捧げる姿に、お客様のテンションが自然に上がるのを感じて、企画者はひとりほくそ笑むのだった。

青蔵鉄道はどうなっているか?

青蔵鉄道へ乗車中
青蔵鉄道へ乗車中

さて、皆さん興味津々の青蔵鉄道に乗るために西寧駅へ。待合室に行ってみると、そこはまさにツアータイトル通り「巡礼者あふれる」状態となっていた。「どこから来た?」「日本人か? 韓国人か?」とこの時期珍しい外国人観光客の我々にあちこちから声が飛ぶ。列車がホームに入ってくると、ワッと人々が列車に押し寄せる。みな、嬉々として聖地ラサ巡礼にいける喜びにあふれているようだ。

日程表には「車窓からの眺めを楽しんだり、巡礼者が大勢乗った硬座(2等椅子席)へ遊びに行ったりと、列車の旅をお楽しみください」とある。お客様から「あの文句に引かれてこのツアーに参加した」とのうれしいお言葉も頂戴した。そうなのだ。列車の旅だからと言って、自分の席にじっと座っているなんてつまらない! せっかく、たくさん地元の方が乗っているのだから交流しない手はないのだ。

ずっとコンパートメントから出てこない1等車の日本人団体客を横目に、勢い込んで出かけていった硬座は乗車率120%!全席指定のはずなのに、なぜか通路にまで人があふれ、歩くこともままならない。当然、ほぼ全員がチベット人巡礼者だ。もし、漢族の乗客がいたら相当居心地が悪かったことだろう。

硬座の巡礼者たち
硬座の巡礼者たち
どこを向いても座席はぎゅうぎゅう
どこを向いても座席はぎゅうぎゅう

我々が日本人(外国人)だと分かると、あちこちから「おい、これを食べろよ」と、ツァンパ(麦焦がしの粉)、モモ(チベット風餃子)、干し肉などなど、いろいろな食べ物が差し出される。お客様のお腹が心配なのだが、敢えて食べるのを止めなかった。添乗員失格といわれるかも知れないが、それは、食べ物だけでなく、彼らの気持ちもそこには差し出されているからだ。恐る恐るでも食べてみると、本当にうれしそうな笑顔が返ってくる。そんな出会いに水を差す権利は、添乗員にだってないと思う。

※「もらい食い」はお客様のご判断でお願いします。もちろん本当に「やばい」ものはストップかけます。

肝心の冬の青蔵鉄道からの風景はどうなのか? これは写真をご覧いただけば、あまり多くの言葉は要らないだろう。印象的だったのは、線路と平行して走る荒野の道を五体投地で進む巡礼団。いったい何日かけてラサまで行くのだろうか? これまで、毎年のようにチベットへ足を運びたくさんの巡礼者に出会ったが、あの強烈な信仰心にはやはり胸が熱くなる。

青蔵鉄道車窓より
青蔵鉄道車窓より
 
五体投地で荒野を進む
五体投地で荒野を進む巡礼者

ラサに集う巡礼者の群れ

約24時間の列車の旅を終えラサに着くと、さっそく巡礼者でごった返すバルコルへ。ここは「チベットでもっとも聖なるシャカムニ像」が安置されるジョカン寺の門前街。チベット各地からラサにやってきた巡礼者はまず間違いなくポタラ宮とこのジョカン寺を詣でる。きっと列車で乗り合わせた巡礼者一家もやってきて、仏具、アクセサリー、日用品、さらに留守を預かってくれた人へのお土産など、田舎では手に入らないものを買い込んで帰るのだ。
バルコルはジョカン寺のぐるりを囲む巡礼路でもある。この巡礼路を回ると功徳が積めるとあって、歩いて巡礼するものばかりでなく、五体投地で回るものも少なくない。お寺の正面広場も五体投地を繰り返す巡礼者で埋め尽くされている。

人ごみのバルコル
人ごみのバルコル
ポタラ宮巡礼路
ポタラ宮巡礼路

この時期のバルコルはまさに人の海。現地ガイド、駐在員、私の3人体制で10人のお客さまを案内していたが、それでもうっかりしたらはぐれてしまいそうだ。ほんの1ヶ月前に来たときよりも、遥かに巡礼者の数が多い。11月はまだ農作業が残っているが、12月になると時間ができるのだろう。駐在員によると「今年は例年よりも巡礼者が遥かに多い」とのことだが、その予想以上のパワーに、軽く圧倒されるほどだった。

五体投地で巡礼者になる!

翌日、ラサの隠れた祈りの場「サンゲ・ドゥング」へと繰り出す。巨大な岩に千体を越える仏像が刻まれている。さらに裏手には、真言(マニ)を刻み込んだ石版を積み上げた「マニ塚」がそびえている。五体投地で礼拝する地元の人々もたくさんいる。

サンゲドゥングの巡礼者家族
サンゲドゥングの巡礼者家族
サンゲドゥングにて
サンゲドゥングにて
奥にはマニ塚がそびえる

五体投地は頭の上(身)、口元(口)、胸の前(意)の3箇所で手を合わせ、全身を投げ出す礼拝法。つまり身体、言葉、精神のすべて捧げるということだ。この日は狙ったように(?)2011年の元旦。はるばるチベットまで初詣にやってきた我々も、五体投地をするべきだ、とお客さま全員で五体投地を始める。

五体投地中の添乗員・中村
五体投地中の添乗員・中村

お祈り中の地元の方に、「ちょっとごめんね」と敷物と場所を借りて、全身を投げ出す。3回1セットが基本なので1回、2回、3回と繰り返す。単に身体を動かして血の巡りがよくなっただけかもしれないが、さわやかないい気分だ。皆さんも、巡礼者になりきって、チベットの精神世界にほんの少しだけ足を踏み入れた気がしたのではないだろうか?

実は、このツアーは「巡礼シーズンのチベットを、自らも巡礼者になった気分で歩く」というコンセプトで作った。バルコルはともかく、サンゲ・ドゥング、その後訪れたポタラ宮の巡礼路などはいわゆる観光地ではないが、チベット人の巡礼者が必ず参拝する場所だ。まるで日本の縁日のように露店が立ち並ぶ門前街の雰囲気に軽い高揚感を覚えつつ、大勢の巡礼者に混じって歩いていると、まるで自分も巡礼団の一員になったような錯覚を起すのだ。

祈りを捧げるおばあさん

チベットに興味を持つ人は、もちろんポタラ宮のような建造物や仏教美術、自然の景観にも魅力を感じるだろう。しかし、多かれ少なかれ、その精神世界や仏教文化に興味を持ってこの地を訪れる人も少なくない。その根源とも言うべき「フツーの」チベット人の巡礼文化に触れることで、チベットを少しでも身近に感じてもらえたのであれば、企画者としてこんなにうれしいことはない。

今回の冬のチベットの雰囲気は、私個人にとっても本当に素晴らしいものだった。それは、参加されたお客様と「想い」を共有できたから、なお一層強くなったんだろう。素敵なお客様にめぐり合えて、手前味噌ではあるが、私の企画は大成功だったと思っている。

西寧で案内してくれたガイドの張さん、ラサのヤンゾム・チューキ(さくら)さん、ありがとう!
そして、チベットの巡礼者の皆さん、本当にありがとう、「トゥ・ジェ・チェ!」。
皆さんの幸せを心から祈っています。