開講記:暮らしの”くすり塾”-東秩父村- 【秋】よみがえる紫雲膏

講座名:暮らしの”くすり塾” 「甦る~紫雲膏を作る~」
開講日:2023年10月14日(土)
報告者:中村昌文

暮らしの”くすり塾”とは 

50、60年前まで薬や薬草の知識は、祖父母から孫へ、親から子へ、またはガキ大将がいるような異年齢の子ども集団のなかで、意識せずとも暮らしの中で受けつがれてきました。しかし高度経済成長や核家族化にともない教育的な地域文化が失われてしまったいま、本講座では東秩父村のおばあちゃんたちと、その孫の世代にあたる西沙耶香さんを講師に迎えて暮らしのなかにおける“くすり”文化の再興を試みます。私、小川は田舎のガキ大将のように、また、薬剤師としてみなさんを懐かしい薬の世界に誘えればと思っています。(講師:小川康さん)

「甦る~紫雲膏を作る~」

農村センター近辺の野草を観察

会場の農村センター近辺の野草を観察


講座は10時に小川町駅に集合。路線バスに40分ほど揺られて会場となる農村センターへ向かいます。終点の白石車庫で下車し、まずはバス停付近を散策して「東秩父村 野草に親しむ会」の皆様と恒例となる草花の観察です。
途中、クルミやムカゴが実っていました。今年は夏暑かったからか実をつけるのが遅いようです。

農村センターにて講座風景

農村センターにて講座風景

会場の白石農村センターにてスケジュール説明、小川先生からの解説の後、各自お昼を食べて作業開始です。「野草に親しむ会」の皆様に地元のサルナシ(キウイの原種)や、美味しいおかずををふるまっていただきました。サルナシは甘酸っぱくてどこか懐かしい味です。サルだけでなく、イノシシやクマも好んで食べるんだとか。

紫雲膏(しうんこう)とは

江戸時代に、紀州で世界初の全身麻酔による乳癌手術を行ったことで有名な華岡青洲(はなおかせいしゅう)が考案した軟膏です。主成分は紫根(ムラサキの根)、当帰、豚脂。火傷や切り傷、擦り傷、あかぎれ、ひび割れ、皮膚疾患などに効くそうです。
華岡青洲をご存じない方は「華岡青洲の妻」で検索してみて下さい。

自分の母親と妻を実験台にした話は有名ですが、彼の家の庭には犬の骨が大量に埋められていたそうです。有吉佐和子さんによって1970年に小説化、その他、映画化、ドラマ化もされています。

紫雲膏の材料

紫雲膏の材料

紫雲膏の作り方

【用意するもの】
紫根 60g 当帰 30g 胡麻油 500g ミツロウ 137g ラード 10g

【手順】
① 胡麻油を180℃まで加熱。
② 120℃まで下げてミツロウとラードを追加して20分加熱。
③ 当帰をガーゼ2枚で包み、120℃保ったまま加熱する。20分間抽出する。
④ 最後は押しつぶすように当帰を抽出する。
⑤ 紫根をガーゼ4枚で包み、140℃で15分抽出。
⑥ 水を張った桶に浸けて冷ます。固まりはじめるとかき混ぜながら練る。
⑦ だいぶん固まってきたら裏ごし器を使って漉す。 完成。

今回はラードの代わりに、さらに効き目の強い「クマの脂」を使いました。
薬草好きな方には動物性の油は忌避する方も多いのですが、効き目から言うと植物性より動物性のほうが圧倒的に効くそうです(小川さん談)。

紫雲膏の作り方情報は巷にあふれていてネットで「紫雲膏 作り方」と検索すればたくさん出てきます。材料さえそろえられればド素人でも作れますが、作る際に大切なのは、分量を守り、抽出温度をきちんと管理すること。自分で薬を作る良さは効き目を強くしたり、弱くしたり「成分を調整できる」ことだそうです。また、許可を得た製薬工場以外で作られた薬を販売することは薬事法で禁じられています。
小川さんによれば、そのせいで普通の人と薬(薬草)との距離ができてしまったので、再び生活の中に「くすり」を取り戻すことが、この講座の目指すところだそうです。そんな小川さんの薬や薬草にまつわるあれこれを聞きながら作業ができるのも、この講座の良いところです。

紫雲膏を作ってみよう!

ゴマ油を180度に温めます

ゴマ油を180度に温めます

まずは180度に温めたごま油に、ミツロウと、クマの脂を投入します。

クマの脂 クマの脂
ミツロウを投入 ミツロウを投入

そして当帰(とうき)をガーゼに包んで投入します。
温まってくると「これぞ漢方薬」という当帰独特の甘くて苦い匂いがプーンと漂ってきます。

当帰は血管拡張作用があるそうで、婦人病によく効くそうです。名前の由来は「妻の婦人病が良くなって夫が当に(まさに)に帰るべし」と言われています。根は医薬品ですが、葉と花は食品です。
身体を温める効果が高く、同じ薬効のあるショウガと比べても圧倒的に強力で、カモミールなどのハーブと比べると「月とスッポン」どころではなく「プロとアマチュア」、「薬と食品」の差があるそうです。

若かりし頃小川さんが試しに丸々1本の当帰を食したら、血圧が下がり過ぎて死にかけて、無理やり全部吐き出したんだとか。長野県の別所温泉にある「森のくすり塾」でも栽培していますが、薬用成分が足りずに医薬品としては流通できないそうです。でも販売すると違法なんだとか。でも、薬効はあるので欲しい方にお分けしたりしているそうです。

続いて紫根を投入します。

紫根の主成分は「シコニン」。日本語由来の名前は日本人の学者が発見した証拠だそうです。
紫根はムラサキ(紫草)という植物の根。ムラサキはかつては武蔵野のそこいらじゅうに自生していた野草で、薬用以外に染料として使われてきましたが、現在は絶滅危惧種だそうです。まさに武蔵野に住んでいる身としては全く知りませんでしたが、武蔵野の学校の校章のデザインになったり、校歌にうたわれたりしているそうです。
以前、たまたま東秩父村の野草に親しむ会のメンバーの自宅の裏庭にたまたま残っていたのが、この講座の発端になったんだそうです。

紫根を投入 紫根を投入
紫に染まりました 紫に染まりました

紫根を投入してしばらくすると、じわじわと紫の色素が広がっていきます。
色が濃ければ濃いほど、薬効も濃いそうです。染色利用されるのも納得です。

鍋ごと冷やします 鍋ごと冷やします
ムラサキイモの練り物見たいです ムラサキイモのアンコみたいです


抽出が終わったら、鍋ごと冷やします。
冷やすと、徐々に固まり始めるのでヘラでかき混ぜます。まるでムラサキ芋のアンコみたいで、美味しそうです。
ペースト状になったら裏漉しします。
最後に、出来た紫雲膏を容器に詰めます。
参加された方が、誰とはなしに作業をサッサとこなしていきます。こういうチームワークは「さすが日本人」と思う光景です。

裏漉しします 裏漉しします
容器に詰めます 容器に詰めます


材料の紫根や当帰は医薬品なので、たとえ小川さんのような薬剤師が作ったとものであっても、許可を得た製薬工場以外で作ったものを販売すると違法になるそうです。薬事法上、自家消費は問題ないそうなので、できた紫雲膏は「お土産」としてお持ち帰りいただきました。

最後に小川さんからの講評があり、終了です。

昔はどこの家にも囲炉裏や火鉢があり、火傷が今よりずっと身近だったので、各地で火傷の薬が作られたのでしょう。だから身近な植物を利用して自分たちで薬を作り利用してきたのでしょう。協力していただいた、野草に親しむ会のおばあさま方の話や小川さんのお話を伺い、「暮らしの中の”くすり文化”、を意識しているときっと生活が少し豊かになる」そんな気がしました。

おまけ:保存料を入れていないので、作成日を書いて早めに使いましょう。

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