第186回 ヒイラギナンテン ~薬草サバイバル~

ヒイラギナンテンヒイラギナンテン

「災害時に問題となるのは、空腹と出血と下痢と熱と感染症、そして痛みです。これらに対応できるように都内にもっと薬草を植えましょう。」と、帰国後の講演会でいつも語っていた。当初は、ここで聴衆から笑い声が起こったものだったが、3.11以降、状況は一変し、みんなが身を乗り出して僕の話に耳を傾けてくれるようになった。そもそも、この「薬草サバイバル」の着想は、都内の予備校医学コースで講演をしたときに得た。

予備校で講義する筆者予備校で講義する筆者

「電気がなくなっても、文明が滅びてもチベット医学は“医学”を行える。身の回りの自然から薬を作り出すことができるんだ」。未来の医者たちを相手に、僕はいつものように絶好調で話しまくった。そして、興奮冷めやらぬまま控室で休んでいると学生たちが僕を追いかけてきた。「本当に、ここで薬を作ることができますか?」という素直な問いに「もちろん!」と根拠なく勢いだけで答える僕。すると、「僕たちは次の授業はありません。これから一緒に街の薬草を案内してもらえませんか?」と純粋な願いを僕にぶつけてきた。そして学生5名を伴って、見知らぬ御茶ノ水の街へ繰り出すことになったのだが、正直「やべえ……。下見もなしに、都内で薬草観察会なんて……」とかなり焦っていたことを告白しておきたい。

ヒマラヤ山中とは全く異なる観察眼でコンクリートジャングルを見渡してみる。何か薬になるものはないか必死に探す。そのとき街路樹の実が目にとまった。セイヨウトチノキの実だ。「これはトチノ実の一種だから、きっとタンニンが豊富だ。タンニンはタンパク質を収斂させる力があるから止血や抗菌に使える」とドヤ顔をしながら解説した。手を伸ばし、黒い実を取ると学生たちは興味深げに匂いをかいだ。そうして僕の心がリラックスすると観察眼もリラックスしてきたようだ。続いて小さな公園の片隅に葛の蔓を見つけた。「これは葛根湯の原料になる葛だ。根には澱粉を含んでいるから、栄養補給に役立つかもしれない」。そう解説すると、学生の一人が「それよりも、葛の丈夫な蔓が非常用のロープになりそうです」と発言し、僕の目から鱗が落ちた。そうだ、服用するだけでなく、確かにロープとしてのほうが緊急時には役立ちそうだ。

道端にヨモギ(第63話)を見つけた。そういえば最近、都内でヨモギが減っているような気がする。「ヨモギは、トチノミほどじゃないけど止血効果があるから、ちょっとした傷には使えそうだ。それに食用にもなるし、乾燥すればお灸になるし、虫よけにもなるし、さらにはお尻拭きにも使えるし」と解説するとみんな笑ってくれた。もしも、トイレットペーパーがなくなったら、ヨモギは都内で奪い合いになるのではと予想している。ゲンノショウコ(第52話)も見つけた。「下痢が激しいときはゲンノショウコを服用するといい」。そうして、みんなもリラックスしつつ、都内で薬が無くなったときのための薬草を探しまわった。最後に公園の片隅にヒイラギナンテンを見つけた。枝を折って外皮を剥ぐと黄緑色の内皮が現れた。「これには、現代薬でも抗菌薬や湿布薬、目薬に使われているベルベリン(第32話)が含まれている」。みんなで口にするとほのかな苦みに歓声を上げた。きっと彼ら、彼女らは災害時に活躍するスーパードクターになるに違いない。

IMG_2078ちなみに、風カルチャークラブのオフィス近くの植え込み。
ツツジ、トサミズキ、ハナミズキなどがありました(風カルチャースタッフ撮影)

街路樹は食用になるビワなどの果樹を植えるとして、主要な神社や公園には意図的に薬草を植えておきたい。いちばんのお勧めはキハダ(第174話)だが、気温が高く標高の低い都内で育つのは難しいので、せめて近郊の丹沢や秩父あたりに群生させておきたい。都内にはキハダと同じベルベリンを含むヒイラギナンテンやメギを積極的に植樹したい。さらには「災害時のための有用薬草マップ」を作成して都民に配布すれば意識が高まるだろう。
都内の雑草をヨモギとゲンノショウコにしてしまいたい。さらに垣根に茶葉を使えば、いざというときにカフェインの発汗解熱作用が期待できる。鎮痛効果が期待できる朝鮮アサガオ(第56話)の利用はちょっとレベルが高いので、薬剤師たちに訓練しておいてもらおう。そして、9月1日の防災の日にキハダやヒイラギナンテン、セイヨウトチノキ、茶葉、ヨモギ、ゲンノショコウコの使い方を都民みんなで学んでおきたい。すると、いざというときに、さっと草木に手が伸びるし、なによりも(ちょっと不謹慎だけども)災害を想像するとワクワクしてくるではないか。小さい頃、停電したときにロウソクを灯すのが楽しかったものだった。あんな感じだ。

IMG_2079これも風カルチャークラブのオフィス付近にて。
ヤマブキがありました(風カルチャースタッフ撮影)

大自然のなかで受け継がれてきたチベット医学の真髄が、大都会の東京で甦ったなら素敵だなと僕は夢みている。外添都知事、こんな「東京薬草サバイバル計画」はいかがでしょうか。


セイヨウトチノキは正確にはベニバナトチノキだとも言われています。また、セイヨウトチノキの実が、ほんとうに役立つかどうか、私はまだ実践していません。あくまで推測で書きました。


現代都市計画の視点でみると、果樹や茶葉やキハダは虫を呼びやすく、管理に手間がかかるという欠点があるが、そうした短所と、災害時の長所を合わせたうえで考えてみてほしい。


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