チベットの「信仰と現実の衝突」を描く『羊飼いと風船』が1月22日から公開

©2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

羊飼いと風船 ©2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

世界的に注目されているチベット映画界を牽引するペマ・ツェテン監督の作品『羊飼いと風船』が、1月22日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーされます。

『羊飼いと風船』予告編

<『羊飼いと風船』ストーリー>

チベットの東北部アムド地方(中国・青海省)の草原で羊を放牧し伝統的な牧畜生活を送る祖父、息子夫婦、その3人の子供たちという三世代の家族。すでに3人の子どもがいる夫婦にとって産児制限がされている中国では避けるべき妊娠が発覚する。しかもその子供は祖父の魂の生まれ変わりだとされる。産むように懇願する夫と、経済的な状況を考え中絶を望む妻。伝統的な生活と仏教的な価値観が、現代社会と衝突し、家族が揺れ動く……。

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もともと遊牧民の生活では子どもたちも羊を追い、家畜のフンを拾い、水を汲み、家事の手伝いをするなど貴重な労働力でした。しかし、現代では子どもたちは町の寄宿学校に通い、家の手伝いができないだけでなく、学費や生活費がかかるようになり、子どもを持つことは大きな負担になっています。移動は馬からバイクに変わり、電気だけでなく、テレビやラジオ、携帯電話も普及し、彼らの生活も現代の貨幣経済に取り込まれてきています。

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そんな現代社会に取り込まれつつある遊牧民たちですが、現在でも信仰は心の大きな部分を占めています。この作品では特にその信仰の根幹となる独特の死生観=「魂の生まれ変わり」が重要なファクターになっています。

日本でもダライ・ラマなどの『転生活仏』については聞いたことがあると思いますが、チベットの人々は人間に限らず全ての生物の魂は輪廻し、生まれ変わると信じています。私も長くチベット文化圏の旅を通じて現地の人々と関っている中で、そんな彼らの考え方に触れる機会が何度もありました。

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例えば、あるチベットのガイドは幼いころに亡くなった父親の写真を見たことがないそうです。写真を残すと死者の魂がこの世に未練を残してしまい、早く転生できなくなってしまうというので、写真を焼いてしまうのです。
また、あるチベット人は、交通事故で人が大勢亡くなったという話題の後で、神妙な顔をしている私に明るくこう言いました。

「死なんて便所に行くのと同じだ。誰もがいかなくてはならないし…、必ず帰ってくる」

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「死生観」という民族の最も根源的な価値観は、おそらく最も変化しにくいものだと思います。その根源的な価値観が現実の社会と衝突した時、人はどうするのか? この映画はそんな問いを私たちに投げかけてくるのです。

そして、この物語において、明確な答えは出されていません。
それはあたかも、旅の途中で出会った人々が、ふと見ず知らずの我々に心の声を吐露する場面に出くわすのに似ています。彼らの問題は現在進行形であり、いつ答えが出るのか、そもそも答えが出るのかどうかすら分からない。

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しかし、現地で出会った人々の抱える苦悩や問題を知り、共有することは旅を豊かにしてくれます。また問題を抱えている側も、多くの人に知ってもらい共有してもらえることはなんらかの救いになるのだと思います。問題を知ったことで現実が変化することもあるのではないでしょうか。

自由に旅することのできない今だからこそ、見ていただきたい映画です。
1月22日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーです。

『羊飼いと風船』公式ページ

また本作の原作を含むペマ・ツェテン監督の小説集も出版されています。こちらも要注目です。
風船 ペマ・ツェテン作品集 ペマ・ツェテン著 大川謙作訳(春陽堂書店) 

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